421話 ページ8
「いい子、いい子だね……」
段ボールを見つめながら優しく声をかけた。窓の外から差し込む月明かりは青くて明るくて、眠る子犬の安らかな寝顔がよく見える。
少し冷たくてかたいけど、ふわふわの毛の子犬をゆっくりとなでてあげると心が満たされていくようだった。
「とってもかわいいね、ずっとそばにいていいんだよ」
耳の隙間に入ってくる、何かが割れる音だって気にならなかった。今はこの部屋と段ボールの中にいる子犬だけがレイの世界だった。
「大丈夫、怖くないよ……」
何かを殴る音も、また何かが壊れる音も、さっきから鳴りやまない。どこかが無法地帯みたいになっているみたいだけれど、子犬が嬉しそうにこちらを見上げているのだから、その真ん丸な瞳から目を離すことなんてしたくなかった。
──でも。今日の二人の会話は、レイが勝手に連れて帰ってきてしまった子犬のことで喧嘩しているみたいだったので。ほんの少しだけ気になってしまって、どうしても会話が耳に入ってきてしまう。
「──お前のせいだ! お前が狂ってるから、あいつはおかしいんだ!」
「──いいえ、あの子の異常はあなたのせいでしょ……!?」
「…………」
父親のひときわ大きい怒鳴り声も、母親のヒステリックさが増した叫び声もいつもよりうるさいし、物が飛んで行ったり壊れたりする音もいつもより多い。
「──あぁ……がまんならない!!」
「──ねぇ、なにする気なの……!!」
レイが子犬から目を離して顔を上げた瞬間。下の階から、今までに聞いたこともないほどに高い声で、大きな声で、叫ぶ母親の声が聞こえてきた。
あまりに大きな声だったから、思わず立ち上がる。
「……今日は……ひどいな……」
慣れているはずのレイですらひどい、と思うほどなのだから当然のことかもしれないが、段ボールの中の子犬も硬直してしまっている。
「キッチン……のぞいてみようかな……」
段ボールの中、動かないままの子犬に目をやって、安心させるように微笑んだ。いい子で待っててね、と言って段ボールを閉めると、部屋を出る。そしてレイはそのまま、不自然なほどに静かになった一階へと降りていった。
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リア(プロフ) - ましゅまろぉさん» はじめまして!コメントありがとうございます。検索では結構埋もれてしまっているはずなのに、見つけてくださって光栄です。応援もいただけてとっても励みになります!ご期待に応えられるようがんばっていきますので、これからもよろしくお願いします!( ¨̮ ) (9月29日 1時) (レス) id: 29a124a552 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろぉ(プロフ) - 初めまして。コメント失礼しますm(*_ _)mこちらの作品を最近見つけて面白くて思わず一気見していました。これから更新お待ちしています。応援してますꉂ📣 (9月21日 22時) (レス) @page38 id: f13e73b476 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ミミックさん» コメントありがとうございます!長らくお待たせしました。これほど更新が遅れてしまったのに読みに来てもらい、コメントまで!本当に嬉しいです。応援いただきありがとうございます。できるだけ早く続きをだせるよう頑張るので、また読みに来てくれると嬉しいです! (9月13日 12時) (レス) id: 7341473d1c (このIDを非表示/違反報告)
ミミック(プロフ) - 更新再開ありがとうございます。リアさんのペースで頑張ってください。応援してます (9月9日 9時) (レス) @page36 id: 552a25aaf1 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - @高橋_Teretaさん» コメントありがとうございました! そして大変お待たせしてしまい申し訳ありません。もしまだ更新を待ってくれていて、再び読みにきてくださるのであればそれほど嬉しいことは他にありません。完結までは必ず持っていきますので、良ければまたお願い致します。 (9月9日 3時) (レス) id: 29a124a552 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リア | 作成日時:2022年8月30日 13時