232話 ページ6
身体も、精神も、疲弊しきっていた。先ほど殺した男に殴られた傷が今更疼く。心は擦り切れそうになっていた。
Aは足を引きずりながら、教会へ帰ってくると、血に濡れた手で門を開いた。まだ乾いてすらいない血にまみれたAの手が触れただけで、門は赤く汚される。
(今度こそ、ここにはいられない────わたしが、穏やかな日々をめちゃくちゃにした。わたしの手で、壊してしまった)
血まみれの姿をグレイ神父に見られたくなかった。グレイ神父の失望した顔を、見るのが怖かった。でていけ、と言われる前にでていこう。そう思っていたのに。
「……神父様」
Aが帰って来ることが分かっていたかのように、グレイ神父が立っていた。いつだってそうだ。見透かされている。見通されている。
グレイ神父はAの姿を見た。傷だらけになった身体。返り血に染まった服。その手に握られたナイフ。全てを察したグレイ神父が、目を細めた。
「……また殺したのか」
「……すぐに出ていきます。もうあなたに迷惑はかけられない」
グレイ神父の横を通り抜けて、自分の部屋に向かおうとする。荷物をまとめて、それからどうしよう。そんなことを考えようとしたAの背中に、グレイ神父が呼びかけた。
「待ちなさい」
Aは足を止めた。そして振り返る。変わらず表情の読めない強面の顔。いつもと変わらない表情なのに、無性に責められている気がしてAは息を詰まらせた。
Aの恐れを知ってか知らずか、グレイ神父は淡々と問いかける、いつものように。
「また人を殺す、とはどういうことだ。何故そう思うのかね」
「……わたしは人間が嫌いです。今までは、ずっと我慢してきたけれど、今日人を殺して、もう戻れなくなりました。今、神父様と話している時も、誰かを殺したくてたまらない。殺さないといけない。────そう思っているから。だからわたしは、また人を殺してしまうと思います」
Aは目を伏せた。人を殺したことを、正当化しようとしている自分に嫌気がさす。それでも、衝動に逆らえない自分に腹が立つ。人間嫌いには、自分自身を含まれているらしい────その事に気がついて、また嫌気がさす。
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リア(プロフ) - わごむごむさん» コメントありがとうございます!まだまだ未熟なので上手く壊れていく様子が描写できているかが不安なところですが、ここから先もどんどん皆が壊れていきますよ…!よろしければ続きも読んでいただけると嬉しいです(´∀`) (2019年9月19日 20時) (レス) id: aa65f53a7e (このIDを非表示/違反報告)
わごむごむ(プロフ) - 皆がどんどん壊れて行く感じがたまりませんなぁー (2019年9月17日 1時) (レス) id: 10a6ab8e26 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ゆゆさん» コメントありがとうございます!夢主の過去は書くうちにどんどん重くなってしまいました(^^; もっとやってもいいのですか!それなら!(違うそうじゃない)責任を押し付ける夢主は私自身書きながらくすりとしてしまいました(´ω`) (2019年7月24日 21時) (レス) id: aa65f53a7e (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ - 夢主ちゃんの過去が重すぎて…好きです←いいぞもっとやれ(( さりげなく責任をダニー先生に押し付ける夢主ちゃんも好きです(語彙力) (2019年7月23日 18時) (レス) id: 0ad758797f (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - キリンの妖精、キリンロングさん» コメントありがとうございます!まだまだつたない文章ですが、面白いと言って下さり嬉しいです!とても励みになります(*´∀`*)これからも楽しんでいただけるよう更新していくので、よろしくお願いします(*’ω’*) (2019年7月11日 19時) (レス) id: aa65f53a7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リア | 作成日時:2019年6月16日 19時