268話 ページ42
次の部屋は、酷く陰気な雰囲気の部屋だった。壁の奥、甘いにおいにつつまれて朦朧とする意識の中で目にしたのはどうやら鏡らしい。いつかどこかで見たようなそれを見つめて、それから辺りを見渡したが、鏡以外には何も無かった。
(どうしよう……)
レイはうろたえながらも、異様な存在感を放つ鏡をしばらく眺めてから、ふと思い出したようにかすかに笑ってみせた。引きつった口角、僅かに細められた感情の無い瞳。顔の表情が凍りついたままになってしまったかのような、下手くそな笑顔だった。
『下手くそ。……ほんと、目が死んでんだよ、お前は』
呆れたようなザックの声が聞こえたような気がした。その隣で、楽しそうに笑うAの笑顔がまぶたに浮かぶ。それに比べて、鏡に映る自分の顔はなんてつまらないのだろう────レイはそんなことを考えながら、精一杯口元を緩ませる。しかし結局のところ、目が死んでいるのではどうしようもない。
レイがため息をついて真顔に戻った時だった。鏡の奥から重厚な音楽が流れ始めたのに気がついて、レイは目を見開いた。その音は、いつかのオルガンが奏でる曲のようで。
(……鏡の向こうに通路がある……?)
鏡の奥に通路があるならばこの鏡を破らなけらばならない。しかし、鏡を素手で割ることは出来ないし、裁縫道具も役には立たないだろう。ならば、使えるのは。
────でも、これは、大切なザックのナイフ。気を失う前ら私に預けてくれた。
レイは手の中のナイフを見つめた。しっかりと握ったその柄は少しだけ溶けてしまっている。
「でも、お願い、使わせて……。先に行くために、必要、なの……」
レイは震える声で小さく呟いた。許しを乞うようにそっと目を瞑ると、レイは鏡に向かって思い切りザックのナイフを突き立てた。レイが恐る恐る目を開けると、鏡には、レイがナイフを突き立てたその場所を中心に、蜘蛛の巣のようなひびが入っていく。
(ナイフがナイフを……刺しているみたい)
324人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リア(プロフ) - わごむごむさん» コメントありがとうございます!まだまだ未熟なので上手く壊れていく様子が描写できているかが不安なところですが、ここから先もどんどん皆が壊れていきますよ…!よろしければ続きも読んでいただけると嬉しいです(´∀`) (2019年9月19日 20時) (レス) id: aa65f53a7e (このIDを非表示/違反報告)
わごむごむ(プロフ) - 皆がどんどん壊れて行く感じがたまりませんなぁー (2019年9月17日 1時) (レス) id: 10a6ab8e26 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ゆゆさん» コメントありがとうございます!夢主の過去は書くうちにどんどん重くなってしまいました(^^; もっとやってもいいのですか!それなら!(違うそうじゃない)責任を押し付ける夢主は私自身書きながらくすりとしてしまいました(´ω`) (2019年7月24日 21時) (レス) id: aa65f53a7e (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ - 夢主ちゃんの過去が重すぎて…好きです←いいぞもっとやれ(( さりげなく責任をダニー先生に押し付ける夢主ちゃんも好きです(語彙力) (2019年7月23日 18時) (レス) id: 0ad758797f (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - キリンの妖精、キリンロングさん» コメントありがとうございます!まだまだつたない文章ですが、面白いと言って下さり嬉しいです!とても励みになります(*´∀`*)これからも楽しんでいただけるよう更新していくので、よろしくお願いします(*’ω’*) (2019年7月11日 19時) (レス) id: aa65f53a7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:リア | 作成日時:2019年6月16日 19時