254話 ページ28
「おい、じゃあいくぞ」
「待って、ダメ。まだ、動いちゃダメだよ」
レイが数時間前と同じ言葉を繰り返すと、ザックはその態度に苛立ったようにレイを振り返る。
「お前もしつけえなぁ。あんだけ寝ればもう動ける」
ザックがそう言い張るので、レイは助けを求めるようにAを見たが、Aはどこか虚ろな目でレイとザックが話しているのを、何故か少し離れた場所で見ているだけだった。レイはちょっとした違和感に首をかしげたが、再びザックが歩きだそうとするので、慌ててそれを止めて口を開く。
「なら、せめて、ザックの傷を先に縫わせて」
そう言って、レイは鞄の中から裁縫道具を取り出し、ザックの身体に手を伸ばす。
「やめろ……!俺の身体に触るな!何もすんな!」
しかしザックは、ほとんど反射的にレイの手を払い除けて、怒鳴りつける。レイはザックの激しい反応に思わずビクッと肩を跳ねさせ、伸ばしていた手を引っ込めた。
「んなことしなくても、俺はこんなことで死なねぇよ」
「……そんなの、ダメ」
レイはうつむいて、唇をキュッと噛み締める。ザックは、レイの抱く感情を理解できないのだろう。居心地が悪そうな、落ち着かない様子でいる。
「……なんだ、お前……ここに来て妙な顔しやがって」
ザックは不機嫌そうにため息をつく。
「────なぁ、お前ら、B3の女が言ったこと……覚えてるか?あの女の言う通りだと思うとムカつくけどよぉ、ありゃな、間違っちゃいねぇんだ」
ザックは言葉を重ねる。ところが、Aの頭の中には、ザックの言葉はほとんど入ってきていない。それどころか、先ほどまでの会話ほぼ全て、Aは聞き流していた。正直言って、それどころではない。
しかし、レイの方は、キャシーが言った言葉を鮮明に思い出していた。キャシーの笑い声、残虐な笑み。そして、放たれたあの言葉。
「……違う……ザックも私も、道具じゃない」
「そこじゃねぇ。んなこたぁ、お前から一度聞いたんだから、覚えてる。────俺はな、化け物なんだよ」
ザックはそう言うと口の端をふっと歪めた。その笑みは、どこか被虐的で、ザックが自分自身を揶揄しているようだったが、それと同時に誇らしさが垣間見える。
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リア(プロフ) - わごむごむさん» コメントありがとうございます!まだまだ未熟なので上手く壊れていく様子が描写できているかが不安なところですが、ここから先もどんどん皆が壊れていきますよ…!よろしければ続きも読んでいただけると嬉しいです(´∀`) (2019年9月19日 20時) (レス) id: aa65f53a7e (このIDを非表示/違反報告)
わごむごむ(プロフ) - 皆がどんどん壊れて行く感じがたまりませんなぁー (2019年9月17日 1時) (レス) id: 10a6ab8e26 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ゆゆさん» コメントありがとうございます!夢主の過去は書くうちにどんどん重くなってしまいました(^^; もっとやってもいいのですか!それなら!(違うそうじゃない)責任を押し付ける夢主は私自身書きながらくすりとしてしまいました(´ω`) (2019年7月24日 21時) (レス) id: aa65f53a7e (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ - 夢主ちゃんの過去が重すぎて…好きです←いいぞもっとやれ(( さりげなく責任をダニー先生に押し付ける夢主ちゃんも好きです(語彙力) (2019年7月23日 18時) (レス) id: 0ad758797f (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - キリンの妖精、キリンロングさん» コメントありがとうございます!まだまだつたない文章ですが、面白いと言って下さり嬉しいです!とても励みになります(*´∀`*)これからも楽しんでいただけるよう更新していくので、よろしくお願いします(*’ω’*) (2019年7月11日 19時) (レス) id: aa65f53a7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リア | 作成日時:2019年6月16日 19時