1章 長く幸せな夢を見ていたような〈８話〉 ページ12
墓場だった。
ここ数年爆撃機が飛び交い、都会は火の海という状況では、子を置いてこの世を去る大人は多い。ただ今は子供自体減っていて、その心配をする必要すら無くなりつつある。墓場と言えどしっかりした十字架や墓石がある訳ではなく、生前の故人達が使っていたサーベルや小銃を地面に差しただけの簡素なものだ。
誰が何処に居るかも分からない乱雑な墓場。戦死者達が永眠する、本来停まるべきではなかった人生の終点。そして戦争で何十人もの人間を殺した、罪人の魂の留まる場所。
戦死者の魂は大抵、実体化せず半永久的に現世に亡霊として留まり続ける。ティーの母親も同じく、ティーが指差した歩兵用小銃を囲むように青白く光る、実体のよく分からない亡霊と化していた。こすずは亡霊を半ば哀れむように見ていた。
その横からティーがそれに話しかける。
「おかーさん、おとーさんいない？」
すると亡霊は喋り出した。というより、頭の中に声が響いている感覚に近い。
『まだお父さんはそっちに居るの。大きくなったら、こすずと探しに行ってみて。』
「こすずぅ？」
『そ。そこのお姉ちゃん。こすず、この子を…………何時までかは分からないけど、宜しく。』
「ええ、わかったわ。」
『あ、それと、その子にはトルダリッグス・ヴィリンって名乗らせなさい。シュルツって名乗らせたら呪うから。オーケー？』
「はあ。」
『そりゃ良かった。これで安心安心。じゃ、さよなら。』
それを最後に、亡霊は靄のように気体状になって消えていった。
ティーは拙い口調で、何も分からず「じゃあねえ。」と手を振って別れを告げる。今成仏したという事がティーには分からず、
「また会おうね。」
小銃の墓標に微笑んだ。それが哀れで、涙腺が熱くなる。
……どおん…………。
遠くで爆発音が聞こえたお陰で涙を流さずに済み、心配そうに音が聞こえた方を見つめるティーに
「行くわよ。」
と声をかけて歩き出した。
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弧瑠十 奏(プロフ) - 00さん» コメントありがとうございます！そう言っていただけると頑張れます。これからも是非ともよろしくお願いいたします！ (2022年6月4日 18時) (
レス) id: 886c7552f3 (このIDを非表示/違反報告)
00 - コメント失礼します。とても面白かったです！本当にお話を書くのがお上手ですね。パート2も楽しみにしています!! (2022年6月4日 11時) (レス) @page46 id: 4683564af1 (このIDを非表示/違反報告)
弧瑠十 奏(プロフ) - 更新かなり遅くなりました。申し訳ございません。 (2021年11月30日 6時) (レス) id: 886c7552f3 (このIDを非表示/違反報告)
はちみつあめ(プロフ) - 検定頑張ってください (2020年10月26日 8時) (レス) id: f82d3976b3 (このIDを非表示/違反報告)
ソウ(プロフ) - 白夜の世界さん» 有り難う御座います！とても嬉しい御言葉です。これからも、頑張ります。 (2020年6月9日 16時) (レス) id: a9c96849d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：弧瑠十 奏 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/aaaD
作成日時：2020年2月25日 21時
