【HQ】失恋大成功【田中龍之介】〈完結〉

Broken heart : 06 ページ6

走っている途中で何かにつまづいた。勢いが止まって、幸い転びはしなかったものの、それを合図にしたかのように、涙を零してしまった。

人通りが少ない時間だから大丈夫だろうと、止まらない涙を流したままにして、一応端に寄って蹲った。大人になるまで好きを拗らせたわたしが悪い。わたしが潔子先輩のようになれないのが悪い。

「…あれ」

わたしの名前を呼ぶ綺麗な声が上から降ってきた。いま、1番会いたくない人であることは自明だった。これ以上、わたしを乱さないでほしい。

その思いで、呼ばれているのを無視したら、腕を引っ張られて立たされてしまった。こんな豪快な人だっけ、と驚いて顔を見てしまった。

心配した顔、優しい顔、…綺麗な顔だ。

「Aちゃん、どうしたの？」

わたしは何も言えずに泣いたけれど、潔子先輩は優しく話してくれた。今日はわたしが田中の家に来ることを知っていたらしい。今までのも全部。

いくら報告されたからといって、彼氏の家に他の女が来るなんて、良い気しないはずなのになんで許してたんだ。いや、許しているわけない。

田中は正直だから何も考えずに言いそうだし、潔子先輩がいいよ、と言ったら信じてしまいそうだけど、きっと嫌だったんだ。だから今日、文句を言いに来ようとした、とか、なのかな。そう考えたら急に申し訳なさが襲ってきて。

「…潔子先輩、ごめんなさい、ごめんなさい」

やっと出た声は汚かったけれど、彼女はわたしの背中をさすってくれた。こういう優しいところ、悔しい。こんな素敵な女性、好きになるに決まってる。わたしが落ち着いたところで、田中の家に戻るか、家に帰るかの2択を提示された。

「2人で、話したいです、潔子先輩と」

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