【HQ】失恋大成功【田中龍之介】〈完結〉

memories ページ18

「生まれ変わったら何になりたい？」

そう話題に上がったのは、確か高校2年の夏。ちょうど合同合宿の期間、朝、たまたま階段で会ったときにそう聞かれた。急に何言ってんだ、と話を聞いてみると生まれ変わるような夢を見たらしい。

「…田中は何になりたいの」

答えがすぐに浮かばず聞き返すと、俺もよくわかんなくてよ、と首を傾げながら言われる。なんでも、夢の中では田中が何かの選択をした後、今みたいにわたしと階段で話していたと言う。それも特別良い話題でもない感じで、とにかく不思議だったらしい。

…田中がした、何かしらに生まれ変わる選択の後、わたしと話していた。夢の中であろうと、それはちょっと嬉しかった。生まれ変わっても君に会いたい、なんてクサイものとは程遠くても、それに近い何かを感じるというか。ああ、ちゃんと私たち仲良いんだなって。

「Aはなんかねーの」
「うーん、わたしも別にこうやって話せればいいかな、田中と同じだわ」

そう返すと、田中は一瞬固まった。深い意味を持たせたわけじゃないけど、そう聞こえても無理はない言い回しだったろう。少しだけ頭の中で反省していると、彼が口を開く。

「でもま、今楽しいもんな」

そうだね、と適当に相槌をうったけど、ちょっと息が止まりそうだった。それくらい嬉しかったし、意外だった。楽しい、か。



…大人になると人は貪欲になるのかもしれない。高校時代のわたしは現状維持を望んでいたけど、いまのわたしはそうじゃない。


もし、生まれ変われるのなら、田中に好きって言ってもらいたい。

なんて、結婚式前日に考えちゃだめだよなあ。せめて明日の式中は泣かないようにしなくちゃ。そっと両頬に手を当てて気合を入れる。

明日は精一杯の笑顔で。


『memories』end

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昨日の夜はさすがに少し泣いたけど。の部分の話です。

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