【実l況l者】好きを更新し続けよう【短編集】 (ページ10)

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今年は西南西やや西 _us ページ10

「今年は西南西やや西！どっち！？」

彼女がそう騒ぐから、誰かがTwitterで言っていた方角アプリを入れて調べる。何度とかって調べたら出てくんのか…？数分スマホをいじって出てきた方角を教えてやる。

「今から食べるから、話しかけないでね」

俺よりいくつか歳下だけど、普段から実年齢よりかなり若く見える彼女が、今日は特別幼く見えた。…そう言われると、口出したくなるのが俺なんだよなあ。Aが長めの恵方巻きをガブリとくわえた途端、俺は行動に出る。

「ねー、A？俺のこと好き？」

いつもAは何も言わなくても俺に好き好き言ってくれる。俺は照れくさくて流しているわけだけど、そのたびに彼女はうっしーは？と俺にも言わせようとしてくる。

その俺が自分からこういった話題に触れるのは、彼女にとって意外だろう。まあ、もちろん恥ずかしさもあるけれど、それより彼女が頑張って恵方巻きを頬張ってるのを邪魔してやりたかった。ちょっと脹れた顔で怒られるかな。

「…！！？」

何とか声を出さずに堪え、こちらをチラチラとみながら頑張って食べ進める彼女。ていうか恵方巻き美味そうだな、今年もA頑張って作ったんだろうな。

「A、好きじゃねえの？俺はー、」

そう更に畳み掛ける。すると彼女はごくりと噛んでいた飯を飲み込んで俺の両肩をガッと力強く掴んでくる。

「すき、うっしーは？」

いつもこの質問は可愛らしいなあ、と微笑みながらスルーするのだが、あんなに楽しみにしていた恵方巻きをわざわざ置いてまで俺に向かってそう言ってくる姿は不思議と少しかっこよかった。

なんか冷静に考えると、ふざけたシーンみたいなんだけど、でも俺はちょっとキュンときた。キュンとくる時点で、彼女の質問への答えなんて決まりきっているんだけど。

「好きだけど、Aの願いは叶わねえな」

食うのをやめて話してしまった彼女にそう言うと、彼女はニヤニヤとこちらを見つめてくる。

「好きって言ってもらうのが願いだよ」

…こいつには敵わねえ。

『今年は西南西やや西』end