【実l況l者】好きを更新し続けよう【短編集】 (ページ12)

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2月14日、君から _rt ページ12

バレンタインというのは、いつからこんなに忙しいものになったんだろう。

2月に入る少し前くらいから何を作るか考えて、調べて、その後に迫るであろうテストも加味して作る日を決めて。この日にしか使わないような材料や道具を揃えて慣れないキッチンに立って、やっとできたかと思えば渡すために綺麗にラッピングをして。

…その前に誰にあげるか選抜もしなくちゃいけない。インスタのストーリーで「アーモンドだめなひといる？」とか「交換できるひとー！」とか探るのも大変だし、あげた後に誰かのストーリーにも写るだろうから、あまり下手なものはあげられないし。

大昔だとか遠い国のバレンタインはこの際どうでもいいけど、日本では女の子が男の子にチョコを渡して告白なんかする日じゃなかったの！？

「なんか忙しそうやね」

わたしが、どのクラスに行って誰に渡せばいいのかをスマホを見ながら確認していると、横から声が聞こえる。

「ね、大変だよ」
「これちゃんと渡す分ぴったり作ってるん？」

他のクラスの子に届けに行ったときに、その隣に座ってる子にもあげる流れになるかもしれないし、把握漏れしてる子がいるかもしれないから、余分に10個くらいは作っている。

持っていく分を数えて、隣のクラスに行く準備をしながら彼の質問に答えた。

「じゃあこれ、ひとつ貰っても？」
「え、いいけど味の保証はしないよ」

予想外の発言に少し笑ってしまう。レトくんならチョコのひとつやふたつ貰ってそうなのに、意外にこの世はシャイな子が多いのかな。違うか、みんな友チョコに追われてるのか。

「今日、Aから貰った、ってことに意味があるから大丈夫」

優しく笑ってわたしの机からひとつチョコを取る彼。その言葉の真意を確かめたかったけれど、彼越しに見える時計が、早く行けと急かしてくる。とりあえず隣のクラスに行かなくちゃ。

面倒臭いだけのバレンタインが、綺麗な思い出に変わるまであと少しなのは、言わずもがな伝わるだろう。隣のクラスに急ぐ彼女の頬も、そんな彼女から貰ったチョコレートを大事そうに見つめる彼の頬も、同じように赤く染まっていたのだから。

『2月14日、君から』end