あふれてしまう、そのまえに。〜7〜

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キィー、という音を鳴らして椅子が一周回る。



『手が止まったね〜。息抜きタイム！』


持ち味の明るい声の持ち主は
パソコンの横にコーヒーを置く。


『ヒョン〜、ありがとう。あー、』


首を左右に傾け腕を回して息を吐く。


『それ、その話、終わらせるつもりあるんですか。
もうやめたのかと思ってました。』


ソファーに横になったまま問いかける、もうひとりの声。


『終わらせるよちゃんと。今ちょっと…
ねえ、シアワセの正体ってなんだと思う？
何がシアワセ？』


コーヒーが注がれたカップから湯気が浮かぶ。


『幸せとはシアワセの正体が何か考えないことです。』


ソファーから呟かれた声に
その瞳を弓なりにして笑う。



『ヒョンは？hopeに溢れた答え、あるでしょ？』


そう上目遣いで見上げられ、
デスクに寄りかかりながら"そのヒョン"が吹き出して笑う。


『真面目バージョンで？』


『うん。大真面目で。』



『自分の幸せをとことん追求したら、
結局自分だけが幸せだと虚しいって気付くから、
そこからが幸せへの道だと思うよ。』


そう言いカップを手に頷く姿。


『じゃあ、自分が幸せじゃなくても、相手が幸せならそれが結局自分の幸せってこと？』


見上げたまま立て続けに問う。


問われた"ヒョン"は軽く眉間に皺を寄せ、首を傾げる。


『お？ちょっと待って。何か凄く難しいこと振られてる気がしてきた。』


キィーー、と音を鳴らして椅子がまた一周回る。


『ごめんね、ヒョン。久し振りに会えたのに。』


『今書いてるのって哲学の話だった？』


そう言うと、パソコンを指差す。


『んー、ラブストーリー？』


ふふっと笑って答えると、


『自分が書いてるのに、登場人物に書かされてる、んだそうです。』


ソファーから欠伸混じりの声。


『お〜分かった分かった、やっぱり哲学だね。』


うんうんと何かを納得した様に難しい顔で頷くと、


『じゃあー、委ねたらいいよ。』


にこにこと言う。


『一応聞きますけど、誰に委ねます？』


『その、画面の中の人物達。』


ぐっ、と親指を立てると底抜けに明るい笑顔。



と同時にパソコンの横、携帯が震えだした。



『ー あ、



" 主人公 "からです。』



嬉しそうに名前が表示された画面を見せると、
"ヒョン"は目を見開く。



『ってことはラストは、』


『ヒョン、』


しぃっ、と人差し指を唇に当て微笑むと


" 作者 "はそっとパソコンを開いた。



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