あふれてしまう、そのまえに。〜7〜

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軽くむせながらAは栗野さんを見る。


それはもう、羨ましいようなそんな憧れにも似た気持ちを持って、栗野さんを見る。


「引かれるかなぁとか考えるより先に、気持ちが口から飛び出ちゃったんです。ジョングクくん、さあどう返したと思います？」

Aは次はしっかりと水を飲み込む。


分からない。
全く分からない。

凝視するテーブルの木目が、アリ地獄に見えてくる。


「うん、全然分からない。」


「ですよね。結果から言うと、ダメでした。
もともと日本にいる間だけの関係、その最後にってすがったけれど、ダメでした。」


くるりとカールした睫毛を伏せて栗野さんが笑った。


その先に、カウンターの女性がテヒョンくんに何かを手渡しているのが目に入る。
連絡先かな、と一瞬思うが、Aは口を開く。



「栗野さんはすごい。自分の気持ちに真っ直ぐで。」


「大分、一方通行でしたけどね。
抱いてほしい、に対して
"それちゃんと大事にしてくれる男の為ににとっときなよ。"って。そう言われちゃいました。」


「…」


ブー、ブー、


Aの携帯が着信を知らせる。


どうぞ出てください、と栗野さんが言った途端切れるそれ。
着信履歴が表示されて


「沢くん」


Aが呟くと、栗野さんが首を傾げて


「沢くんって、なんかどうもAさんのこと」


まで言ってまるで独り言だったかのように水を飲む。
Aもグラスを持ったがもう氷だけになっていた。


「ジョングクくん、次は酷い男にひっかからないでねって言ったけど、結局私何も酷いことされてないし
私、やっぱり彼を好きになって良かった。
ちゃんと別れるために、当たって砕けて良かったです。」


「そっか、うん。」


「さようならって、別れ際はっきりと言われました。」


「…うん。」


ジョングクくんは栗野さんのこと少しも好きではなかったのか。
情が湧かなかったのか。

Aは考えれば考えるほど、
残した言葉すべて彼女に未練を残させない為の言葉に思えてきてしまう。


"ちゃんと別れるために"


その言葉がAには、辛い。


ふとテヒョンくんを見るとしっかり目が合ってしまう。


カウンターから出てこちらに向かうテヒョンくんの手にはウォーターボトル。


空になったAのグラスに注いだ後


「ここ、おいておきます。」


そうボトルを置いたテヒョンくんに栗野さんが放った。


「あの、

Aさんが他の人と幸せになるのはアリですか？」




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