あふれてしまう、そのまえに。〜7〜

約束はいらないから、 ページ17

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「ビール1杯だけにしたのにな…」


その日の夜、Aは寝付けずに
ベッドの上で寝返りを繰り返していた。


栗野さんからのLINEの返信に
[頑張って]と打ってから暫く指を止めて削除した。
それから
[うん、また話そう。ご飯、食べに行こうね。]
そう打ち直した。


両思いなんて奇跡だ。


彼女が言っていた言葉が沁みる。


よれたシーツの端を握って
テヒョンくん、まだ起きてるかな。
そう呟くと、ぶんと頭を振った。
身体が熱くておさまらない。酔った、多分そう。


テヒョンくんのお母様と会ったあの後。



お腹空いたね、と
なんとなくスーパーで食材を買って
なんとなくAの家へ。


出来合いを買っても良かったけれど、
待てる？と聞くと、まちます！と即答したテヒョンくんに急遽簡単な夕飯を作ることにした。


衣づけを担当してもらい、
いつもより分厚くなった豚カツを揚げている間に白ご飯は早炊きでセット。


大根と落とし卵の味噌汁と、白ご飯と、豚カツと、サラダ。
なかなかに遅い時間の夕飯が出来て。


わあ、いただきます、


ぱちんと手を合わせたテヒョンくんはそれはもう気持ち良くぺろりと平らげてくれた。


頬張る姿を目の前に、Aはそれだけで胸の上の方まで一杯。
ただその姿を眺めながら、こんな息子がいたら堪らないだろうと思ってしまう。
しかしすぐ、ああでもきっと甘やかし過ぎて駄目だななんて自嘲気味に笑う。


ほんとう、おいしかった。ごちそうさまです。


食材はテヒョンくんが全て買ってくれたのだけれど
しっかり手を合わせてそう言ってくれて
その爛々とした瞳を見ながら
こちらこそご馳走様です、と手を合わせた。



洗い物を済ませた後、
熱いお茶を飲みながら「テヒョンくん、あのね」
隣に座りながら向き合った。


テヒョンくんはお茶を置いて、うん、と頷く。


「この前2人でいたのに、まだ話していたのに突然…先に帰ってごめんなさい。」


声が震えないように慎重に話すAに
テヒョンくんは、首を横に振った。


「ぼくが、とつぜん、はなしたから

やくそくもできないから」


「約束はいらないの、私、」


伝えたいことを伝える。
Aがこの半生でずっと苦手としてきたこと。

だけど


「私、今までテヒョンくんがいなくなった後のことを考えないようにしてた。考えられないと思った。

でもね、ちゃんと考える。もう逃げない。」


テヒョンくんのまわりの空気が僅かに震えた、
ような気がした。

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