あふれてしまう、そのまえに。〜6〜

あちらのお客さんからですよ。 ページ40

「来週からテーマ決め、そしてグループ決めをしますので、皆さんそのつもりで。学祭までは忙しくなりますから覚悟して下さいね。」



講師の声が響いて、クラス中が、遂にきた、と色めき立つ。


毎年、10月の半ば。
姉妹校と共同で行なわれる学祭は催しの気合の入れようも相まって、非常に賑わう。


メイクアップアーティストのクラスの催しはショー形式。
審査員と一般のお客さんからの投票で優勝グループを決める。



そのショーを見てこの学校に志望する人もいるのだそう。



Aにとって初めてのこの学祭。
やり甲斐のあるとことん打ち込めるイベント。
楽しみで仕方がない。



「Aさん、一緒に組むでしょ！」


すぐ後ろ、距離の近さも関係無い大きな声の持ち主は


「今じゃないでしょ、沢くん。」


講師からじろりと視線を送られた。




夏休みを終えて、ようやく通常授業が始まった。
2学期初日。


学校を出て歩く、いつもの帰り道。


暑さのピークも通り過ぎたことを知らせるような
気持ちの良い風がするりと髪を通り抜ける。


「Aさん！」


後ろから鈴を転がす声で呼び止められ振り向くと
栗野さんが小走りで駆け寄って来た。



「後ろ姿、一瞬、分かりませんでしたっ。」



言われて、Aは耳下までばっさりと切った髪に手をやる。


「小学生以来の短さになっちゃった。さっぱり。」


「大人っぽくてすごく似合ってます。すごく…」


栗野さんが聞きたいことが手に取るように分かる。
何かあったのか、気になるのだろう。
ハーフアップにしてゆるく巻いた髪の隙間から
ぶら下がるピアスがしゃらしゃらと揺れる。




「ありがとう。これはね、ただの気分転換だよ。」


Aはからりと笑う。


韓国から戻って、会うのは初めて。
無事に帰って来たよ、というそんなLINEのやり取りをしただけだった。


2人で並んで足を進める先に見える、
遠くからでも眩しい位に青いドア。


そして風がほのかに香りを乗せて運ぶ。


今日はテヒョンくんが言っていた" 5かあと "。


日本に戻る日のはずで。


もしかしたらもう店にいるのだろうか。


「Aさん、ジョングクくんは明後日からバイト復活するそうです。」



「そうなんだ…」

みさとさんのいる無し関係無く
ぎりぎりまで働くことになったらしい。


「大学の授業が始まるまでだから…
あと1週間だけいられるって、この間の朝までカラオケの時に話してました。」


栗野さんが続ける。

2→←breach of contract.

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