あふれてしまう、そのまえに。 (ページ13)

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「どうぞどうぞ、おかけになってください。」

カウンターの中にいる紳士が

ゆっくり声をかける。

「ありがとうございます、ですが…。」

「ココア、飲みませんか。

温まりますから。」

断るつもりでいたAは

ココアと聞いて

「ありがとうございます。ありがたく頂きます。」

椅子に腰掛けた。

Aはココアが大好きなのだ。

紳士は、ふっと微笑む。

「今は丁度、クローズの時間ですから、

ゆっくり雨宿りしてくださいな。」

え、クローズ？

と思ったAに先回りして

「たまたま、ココアを淹れようとしていたところだったんですよ。」

と目くばせされる。

営業時間ではないのに、いいのだろうか。

「ありがとうございます…」

Aは改めて店内を見渡す。

なるほど、誰もいない。

そんなに広くは無い店。

しっかり手入れされ

大切にされてきたことが分かるような

アンティークのテーブルが3つ。

どれも違うデザインだ。

このカウンターは

きっと一枚板で作られたものだろう。

流れる木目がとても美しい。

カウンターに並ぶ椅子も、

どれも形は様々なのに、

こうして並ぶために作られたかのよう。

カウンターの中

紳士の後ろには

大小様々、

色とりどりのカップがずらり。

ああ、落ち着くなあ。

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