・ ページ9
.
サワタリが退店する時、本日ほとんど傍に付きっきりであったマシロも店先まで着いて行った。あとは金を払って退店するだけ、だと言うのにそこで問題は起こった。
サワタリが金を払うのを渋ったのである。
この店の常連になりつつあった彼は、今まで2度ツケをしているのである。
彼の財源がしっかりと判明しているため強く催促はしなかったが、流石に3度となると目も瞑ってられなくなってくるのがこの世界の理である。
「いけませんサワタリ様…」
「なんやぁ？この俺の言う事が聞けへんのか！」
「いえ、そういうつもりでは…」
「黙れ！！」
ボーイが必死に宥めようとするが、酒の入ったサワタリは全く聞く耳を持たない。
店先でここまで騒がれると店に不利益が生じかねない。マシロはサワタリを刺激しないように、ゆっくりと近付いた。
『サワタリさん、一旦深呼吸しましょう？』
「なんや…嬢のくせして客に盾つこうってのか！」
『そんなんとちゃいますって。ちょお頭冷やしましょうってだけで』
「ただの売女が偉そうにしゃしゃり出てくんなや！」
頭に血の上りきったサワタリは、そっと腕に触れてきたマシロの顔面を思いっきり殴り飛ばした。華奢な彼女がその衝撃に耐えれる訳がなく、後ろに飛ばされ、受付のカウンターに頭をぶつけた。
静観していた野次馬の嬢たちが悲鳴をあげる。
カウンター内に居たボーイが慌ててマシロに駆け寄ると、彼女はそれを手で制した。自力で立ち上がり、よろつきながらサワタリの前へ行く。
ふーふー鼻息を荒らげるサワタリの顔を見て、マシロはくすりと笑みを零した。
「なんだ！まだ殴られ足りひんのか！！」
『いやぁまさか…。もうこんな痛い思いはしたくないですよぉ』
「じゃあなんだ！！」
握った拳を強く震わせるサワタリを余裕そうに見つめ、薄紅色に染めた艶やかな唇を開いた。
『……馬鹿やなぁ、と』
「っ…上等や！！！」
完全に血管が切れたサワタリはもう一度拳を振り上げると、マシロへと大きく振りかざした。嬢たちが悲鳴をあげる中、マシロは微動だにしなかった。
まるで、何かが来るのを理解しているかのように。
サワタリの拳が再びマシロの頬へ当たろうとした瞬間、2人の間に小さな黒い影が滑り込んだ。
その人物は、流れるような動きでサワタリの拳を掴むとそのまま彼に背負い投げをして地面に叩きつけた。
肩に掛けたスーツと、顔に付けられた面布がひらりと揺れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 108人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽんず(プロフ) - ゆゆしきさん» んふふ。照れるネタ考えたんだから、せっかくだしぶち込め！精神で書きました。文章綺麗はまじで嬉しい褒め言葉ですありがとう。どんどん解像度上げてってもろて。 (7月24日 22時) (
レス) id: 1d8d6127fe (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆしき(プロフ) - たじろぎレアちゃん本当に珍しくてこっちが死にそう、本当に文章綺麗でレアちゃんの解像度が私の中であがってきててとても嬉しい (7月24日 22時) (レス) @page4 id: 8adc159d64 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
