A to A《参》 ページ8
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外套から出た黒獣が、わずかな隙をついて空間を喰らった。
続けて小銃を持つ手、首を順番に斬りおとす。
――――
勝利を自覚し、芥川少年は勝ち
ここまで完成するまでにいくつの弾丸が、華奢な体を貫いただろう。
どれほど屈辱にまみれた言葉を吐かれたことだろう。
たった今、芥川が脳裏に浮かべた凄惨な仕打ちを見れば、誰もが彼に同情するに違いない。
しかし、哀れみを少しでもにじませれば、彼の黒獣は平然とその人間の喉元を喰らうだろう。憐れみや施しを許さない、誇り高さゆえに。
それが芥川龍之介という少年だった。
芥川は血を求めた。
仲間の敵討ちすら、芥川は自身の才能を活かす機会のように感じている。
破壊だけが存在意義なのだから、死の恐怖などない。
恐怖はたった一つ、師の期待を損なうことだけであると信じていた。
しかし芥川は、太宰に見捨てられることへの恐怖を、忘れている瞬間があったことに気がついた。
苛烈極まりない地獄の中、確かな安寧が自分にはあったのだと。
ふと発見した、ミミックの死体が握っていた「黒い長髪」は、芥川が忘れかけていた安寧のカケラだった。
『芥川ぁ、髪。』
烏色だともたとえられる、黒。その綺麗な黒は、足立一之の不器用な手にあまる長さだった。
『邪魔になった!! 結んで!!』
芥川かけ離れた美しい黒髪。
それがりんごの香りがすること。
不器用な手から逃げていくほど、するりとした髪であること。その髪を撫で付けているときは、不思議と心に波が立たずにいたことも。芥川は一瞬で思い返していた。
搬送される直前、足立は髪を無造作に引きちぎられていた。引きちぎる、という動作ができた人間は限定されている。
芥川は直観した。——足立の引きちぎられた髪を手に持っているのは、足立を撃った犯人だけだ。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時