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蜘蛛の糸、十五本目 ページ16




幾度も月が巡りました。

幾夜の空を星が瞬き、

幾朝の来光を曇天と共に迎えました。

時が経つにつれて、
私たちを包み込んでいた陽気は失せ、
今では生命を凍らせて行く冬将軍の気配だけが、じっとりと貧民街の真上に居座っております。



或る真冬の盛りのことです。


何週間振りかに、月明かりの優しい夜が穏やかに訪れました。


日を跨ぐ感覚さえも遠くに追いやられるほど眠りが、深くを漂い続けていましたが、
生物の本能として、明かりに自然と誘われたのでしょうか。

常に蔓延る蛇のような睡魔の搦め手から、ほんの少しだけ、身体が浮き上がりました。

私のような虫けらでさえ、吐き出す息が真っ白です。
この白さが、生物の持つ熱を奪っていきます。


街が凍っています。


人の吐く息も、生命の鼓動さえも、何もかも凍らせてゆきます。

冷たく暗い死神の鎌の音が耳に馴染むほどの季節に移り変わったようです。


死神の鎌の音は、私のすぐ側にまで聞こえるようになっていました。

眠りの深さが少しずつ深まっているのがわかります。

眠りの深さが、底なしになってきているのです。

時が経つと同時に、夢見も徐々に徐々に、一度目の地獄的な人生の追憶へと変わってゆきました。


何が近づいているのかぐらい、考えるまでもありません。

この一千年もの間で何度も繰り返したあの感覚が、再び私の元へ訪れようとしておりました。


このような身になってからは、同じことの繰り返しばかりで、『死にたい』と考えたことは御座いません。


『生きたい』とおもねることも、『死にたくない』と無常を嘆くことすら手放した高いところで、輪廻が続く限りの営みを傍観していたのです。


生きたいも死にたくないも、私が人の心を持っていた、遠い昔の思い出だけに残る心持ちです。


この境地を『悟り』と僧が言うのなら、彼らはよもや、果てまで続く生き地獄の地獄たる所以をご存知ないのでしょう。


私が如き卑しい虫螻(むしけら)からすれば、『死にたい』と願うことの方が、よほど人間らしいと感じます。


その表れに触るる時が、既に遠く忘れ去ったはずの人間の心を、私に思い出させるので御座います。


.

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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時

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