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一通り話し終えて、私は心の奥底が、前よりもよほど穏やかになっていることに気が付きました。

かつては鬼を心に飼い、恨み言で龍に姿を変えた女でさえ、今では冬に凍え死ぬ虫でしかありません。

恨み辛みなどで、人間であることを手放して得た強さなど、身を滅ぼすものでしかない。

強さと、弱さの本質が、そこに横たわっているように思えたのです。


「龍之介は、きっと、これから沢山の人に愛されます。こんな蜘蛛の言葉にも、耳を貸してくれる人だもの」

もう、龍之介の顔を窺い知ることはできません。
感じ取れるのは、静かな終わりの気配が、首元で黙りこくっていることだけです。

「もしも、貴方が奈落の底へ落ちるようなことがあったなら…この蜘蛛の糸を、辿ってくださいな。それぐらいのことしか、できませんけれど、…きっと、貴方を地獄の底から、引き揚げてみせます」


もう二度と、このまぶたが開くことはないのでしょう。

再び、地獄の業火に炙られる日々が続こうとしています。

それが六道輪廻を転輪するよりよほど地獄的であったとしても。

彼らとの思い出がある限り、最期に魂が燃え尽きるまで、終生幸せでありましたと微笑んでいられる気がしました。




安珍(、、)は、大嘘付きに違いないやもしれぬ」

雨でもないのに降ってくる水は、いつものことながら乱暴でした。

「だが、」

最期に身を投げた川よりも優しい優しい、すこしだけ塩辛い水でした。

「僕は 約束を守る。貴様が何度、大蛇に生まれ変わろうとも、何度でも殺す」




龍之介は無言で、私の首に布を巻きつけました。


それは現世に存在する暴力の中で、
一等優しい暴力でした。



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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時

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