蜘蛛の糸、二本目 ページ2
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そうでない命は葬いなさい。
輪廻の道に、返すのです。
何度も声をかけましたが、犬はちっとも聞きません。
それもそうだわ。私は人の言葉がわかるだけで、人の言葉はお話しできませんもの。
なにより犬には、人間の言葉がわかりません。
それでも私は懸命に声をかけ続けました。
「ああ……醜い、醜いこと。憐れだわ!」
そうして懸命に声を張り上げ続けていた、その時でした。
ふわり。
犬に食われていた少年の腕が、ほんの少し、ピクリと動きました。
その手には、私の糸が握られていました。どうやら勢い余って吐き出した糸が、彼の手に落ちてしまったようです。
それを彼は握るようにして、力を込めました。
「憐れ、だと」
それからは一瞬の出来事です。
子供の声は、掠れて、地を這うような響きを持っておりました。
その殺気たるや、地獄の悪鬼も恐れること請け合いです。
「僕を、憐れむな!!!!」
子供はどうやら、少年のようでした。
男の子のやんちゃ、と言い切るにはあまりにも人間離れした暴れっぷりで、次々と犬の首を刎ねてゆきます。
身に纏う襤褸布の、何と変幻自在なこと。人形のように変わらない少年の表情からは想像もつかぬほど、多種多様に姿を変えてゆきます。
私はその光景に声も出ないままに、
地に犬が倒れてゆくのを見届けていました。
瞬く間に、少年はすっかり血塗れになってしました。
噛まれて流した血よりも、浴びた血の方が多そうです。
それでも私は、噛み口から黴菌が入ってはいけないと思い、
「もし、もし。早く水場へおむかいなさい。不浄のままではいけません」
と、通じるか通じないかもわからずに、少年に声をかけました。
こうして何度も声をかけたことはありましたが、あの犬の時のように、私の言葉に振り返る者はおりません。
今回もどうせ、聞こえやしない。
そうはわかっていましたが、せっかく生き残ったのに、犬に噛まれたことが災いして死んでしまうのは どうにも悲しくて。
「こらこら、早く傷を癒したいのでしょう。お水で洗いなさい」
言い続けていたのですが。
「僕に指図するな」
……とっても不遜な言葉が返ってきてしまいました。
うん、言葉が返ってくる?
「貴様か、僕を憐れんだのは。騒がしい蜘蛛め」
蜘蛛の言葉がわかる貴方がおかしいのか、それとも人語を解する私が異端なのか。その両方か。
ともあれ、このようにひょんなことから、私の言葉を理解する人間が現れたのでした。
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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時