仕置き人の産声《下》 ページ10
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「ただ、これは極めて個人的な願いだ。私や紅葉君が認めただけでは、この騒ぎが首領殺しだと騒ぐ連中が、君を生かしておくことに不満を訴えるだろう。
そこでだ。合理的最適解として、足立君が組織で生きていくための条件を設けようと思う」
鴎外は返事の代わりに、『攻勢概略書』と題したレポート用紙を少年に手渡す。
「まず一つ。今回の事件は、特務課および軍警への計画的クーデターとして、正式な手続きを踏んで報告書を提出しなさい。当事者が眼を通すから、できるだけ専門用語は噛み砕いて説明すること。
それから二つめ。君にはこれから裏切者を斬る仕置き人になってもらうわけだが―――こうした役割をになう人間には、かならず監視役が必要だ。私と君の中継をする人間をおくからそのつもりで」
鴎外は少年をのせた車椅子を押し、おだやかに病室のドアの鍵を開けた。
「外で監視官が待っているよ。くわしいことは彼らから聞いておいで」
ゆっくりと、ドアが開く。
「ああ、最後に一つだけ。中也君は、君がマフィアを相手に手を抜いた理由ぐらい、とっくにわかってると思うよ」
聞き返す前に、ドアが大きく開け放たれた。
足立の前に、修羅のように立ち尽くす師が、拳をわななかせて見下ろしていた。
表情は帽子に隠れて見えない。
「一発殴らせろ」
挨拶もなにもない。中也は少年の胸倉をつかみ、手袋を外した拳をあげた。
眼をつぶって衝撃に耐える。
しかし、予想される痛みが、いつまでも頬を走らない。
頬をなぞる手が、少しずつ輪郭をさぐるような手つきに代わっていく。
しだいに大きく震えだした。
「………こんなになっちまって、逢ったら、絶対殴るって決めてたっつうのに…この野郎」
声も、大きく震えていた。
慌てて眼をひらいたが、足立には中也の顔をうかがうことはできなかった。
「どこ殴りゃ良いんだよ」
視界のはしで、帽子が床に落ちたのが見えた。
師は、肩口に頭を預けて、床に膝をついたまま弟子を抱きしめていた。
「死に急いでんじゃねえ、」
師が泣いている。ようやくそのことに気が付いても、自由が利く右腕で、彼の背をなでることしかできない。
ほどなくして、足立の視界がひどく歪んだ。
泣いたのだ。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 飛沫さん» ご読了ありがとうございます！！！書いて良かったです！！！！いつも応援のメッセージやイラストをありがとうございました（；＿；）完結までの糧になりました！これからも創作活動をやっていこうと思える応援の数々をありがとうございました！！！ (2020年6月27日 10時) (
レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 完結おめでとうございます! テストのせいで読むの遅れてしまいました。足立くんの切実な心を見れて嬉しかったですし、凄く感動しました!おつかれでした!! (2020年6月27日 7時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - よしな。さん» 最後まで読んでくださってありがとうございました！！！！闇堕ちする過程のお話なのでふざけることなくここまできてしまいましたが、シリアスでも最後までお付き合いくださったのがマジでありがたいです！書いてよかった！！！ありがとうございました！！！ (2020年6月23日 23時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 好きです……！闇堕ちして暗殺業で生きていく決意をした足立くんを見たときは泣きそうになりましたが、茨の道を進んでも彼はなんとか生きてほしい。やっぱりこのシリーズ凄く好きです。 (2020年6月22日 22時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 操咲作乃さん» こんにちは！元気です！！！コメントありがとうございます！！コントもシリアスも頑張って書いていきますので、おつきあいください笑笑笑笑 (2020年5月12日 15時) (レス) id: b5b4ae2a61 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アバンギャルド・マボ | 作成日時：2020年5月10日 17時
