終焉《上》 ページ39
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『タイムリミットです』
無線を持つ中也の手が震えた。
爆弾を前に、諜報員の男は、機械音声のようにアナウンスする。
『逆探知によって、誘爆装置の位置が特定できました。この時限爆弾を解除したとしても、ヨコハマの石油コンビナートが火の海になります。…68人の命を引き換えに、マフィアは国との戦争の舞台に引きずり出されるのです。この意味がわかりますね』
しばしの無言。それからもう一度言った。
『この機体を、破壊してください』
「…手前らは自害を選ぶってことか。あの餓鬼の思い通りに」
地獄の番人と応対しているような威圧だ。
それにも屈することなく、男は「はい」と返事をする。
『栄誉ある、死を以って―――』
「栄誉ある死なんざねぇよ。まだ生きたいんだろ、手前ら」
中也は既に、腕が凍傷になりかけている。
生身の人体が、飛行機が飛ぶような上空に居続けているには限界がある。
しかし、そのような限界を超えた声で、無線に向けて怒鳴り声を挙げた。
「梶井!手前のいう通りだった!装置は石油コンビナートにある!!」
『――――うははははは!!ヤッパリね!』
無線に混ざった、快活な科学者の声に、機内の一同がどよめく。
科学班の梶井基次郎。
足立一之に科学に関するさまざまな智識を授けた、家庭教師でもある男だ。
『爆薬の作り方から仕掛けまで、仕込んだのは僕ですからね。それなりの責任は取りますよ。センセイなので』
言うべきことはそれだけだった。
少ない残り時間でも、科学班を牽引する『爆薬の魔術師』ならば、少年の手がけた爆弾の解除など寝ていても可能だろう。
―――ずっと飛行機に張り付き、無線をつないでいたのは、この報告をするためだったのか。
最初から、中也は彼らを「生かす」ことを諦めていなかった。
「んのクソガキ…、どんな怨恨があったのか知らねぇけどよ、」
「家族のいるヤツを、殺して良い訳ねぇだろうが!!!」
最後の火球が、中也の手によって海側へと投げ出される。
散弾銃を撒き散らし、地上を地獄へと変えていったそれは、
轟々と高くまで火柱を突き上げながら、大海へと消えていった。
着水とともに焼け爛れた装甲が冷却され、鉄の塊に変わる。
燃料の燃える黒い煙に、白い水蒸気が混ざっていく。
間もなくして、装甲が中央から排出される圧に耐えきれずに大爆発した。
「他愛もねぇ」
宙を漂う彼の眼下で、黒く染まった折り紙達は、
糸が切り離されたようにぷっつりと動かなくなった。
地上へ吸い込まれ、
自然の法則に従うように、燃えかすへと変わっていった。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時