菩提樹下の逍遥《参》【文/ス/ト】

ディアボロ《中》 ページ37

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「次はどうする」

芥川は冷徹に言った。

「僕をどう殺す心算(つもり)だ？毒殺か、爆殺か、射殺か、それとも撲殺か？
　…どうだ。殺せそうか。僕が、お前ごときに殺されるような男に見えるか。言え」

「ッく……こ、の、……やろ…！！」


左腕を食い破るような痛みで、意識が朦朧とする。

足立を狂気にかりたてた憑物の気配も、大切な人間が悲しい運命をたどる恐怖も、すべて激痛に上書きされてしまった。


「教えてやる。名家に生まれ育った御曹司などにはわからぬ現実を。
　緒方の家には、なぜ惨劇がもたらされたのか、どうせお前には皆目わからんだろう」


足立の左腕の中で、異能の刺が成長する。

神経が音をたてて千切れていく。

二度と物が握れなくなるかも知れない激痛にうなされ、下手人を見上げた。

芥川はかすかな苦さを顔に浮かべて、足立を見下ろしていた。


「…お前のせいじゃない」


見下す姿勢から、目を合わせる姿勢に変わる。


「お前が思うよりも、この世は無情にできている。死ぬのに善人も悪人もない。
　洋食屋の子らも、織田も。血の親も、養った家族も【弱者ゆえに】命を落とした。ただそれだけだ。
　運命に抗えなかったのは、彼等の方なのだ。
　お前のせいじゃない」


芥川は静かに、足立の腕から異能の刺を引き抜いた。そして今度は、外套を止血のために患部に括り付ける。


「千代助。お前の不安は杞憂だ。
　僕は少なくとも、お前より強い。命運に巻き込まれて死ぬようなこともないだろう。
　それでも未だ認めぬというのなら相手になる。いくらでも」


と芥川は言った。顔を見ずに、手当てをしながら。そうしながら、自分が何を言いたいのかを探し続けていた。

そうするうちに、芥川はようやく、自分の本音に近い言葉をみつけた。


「……どうしても戦わないといけないか？」

「…え、」

「解っただろう。僕は、お前よりよほど強い。故に血筋の不幸に巻き込まれることは、まずない。
　家族を失ったのも、子供らが死んだのも、お前のせいではないと解った。
　ならばこれ以上、戦う理由はないはずだ」



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