死の味がする生の幸福《九》 ページ20
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「……なるほど。僕が見舞っていた、病室に横たわる千代助は髪分身。
つまり、『薔薇の異能者』に誘拐された足立一之は偽物で、本物がこの施設に閉じ込められているはずはない。と。そう言いたいのか」
「それでは、本物の足立一之はどこにいる。とまで聞けば、そろそろお前は怒りそうだな―――千代助」
芥川はひとつづつ、俺のしてきたことを紐解いていく。
その言葉の節々に、後悔が揺らいでいる。きっと止められなかったことを悲しんでくれているのかもしれない。
「…お前は何しに来たの?」
「連れ戻しに来た」
迷いなく、芥川は言ってくれた。
嘘のない本心からの言葉だ。
それでも俺は、「戻る」という言葉が気に食わなかった。
もう芥川の帰る筈の場所は、失くなってしまう。その片棒を担いだのも自身であることに気がついていないのだ。
芥川は囚われた俺を救うという名義で、軍警に対して過剰な攻撃を繰り返した。
軍警も同様に、マフィア本部をミサイルによって攻撃した。このミサイルを発動させたのは俺だが、所持しているのは軍警である時点で、管理責任は軍に傾く。
互いに攻撃を加えている事実は、両組織の運命をまっすぐに戦争へと向かわせるだろう。
そして二組織が戦争を始めたところで、特務課は関与を認めたくないがために、傍観者を貫く。
俺が命を落としたとしても、この傷痕は深く深く残り続ける。
物理的な攻撃を一切受けることなく、特務課は真実、破滅を迎える。
「この計画の主犯者を割り出せ」という問いは、非常に単純な証明問題だ。
X=尾崎紅葉ではなく、X=足立一之だと判れば、手順も目的も証明も簡単にできる。
しかし、これは数学ではなく、社会科の設問だ。
問、「一度起こった戦争を止める方法はなんですか?」
大人に聞けば、十中八九「舐めたことを聞くな」と怒られてしまう質問だ。
それだけ軽率に答えを導くことも、真剣に考えることもできない問いでもある。
俺にだってわからない。
だからこそ、この作戦は完成する。
出題者ですら答えを導き出せない問題を、第三者が解くことは不可能なのだから。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時