死の味がする生の幸福《四》 ページ15
◆
血を流して倒れた俺の幻は、そのまま医者のところに担ぎ込まれた。
こういう時に医療の知識があると随分助かる。腹を刀で裂いた場合の裂傷、手術の手順まで予測をつけ、その通りにイメージを投影させれば、医療従事者ですら騙しこむ比類なき幻に仕上がった。
次に考える必要があるのは、なり変わる相手だ。
清掃員の衣服をロッカー室から拝借し、作業の傍ら病室を見張っているが、このままでは限界がある。
表立って動くには、それなりに顔の知れた人間である方が良い。
そう考えているうち、嫌というほど見慣れた和服が、病室に滑り込んでいく。
―――尾崎紅葉だ。
母さまを目の前で奪った女。
腹を貫いて、それから、俺を黒社会に引き摺り落とした鬼。
現在のポートマフィアの幹部の一人。
見張りもつけずに何故、こんなところにいるのだろう。と考えてすぐに、彼女が懐に短刀を携えているのが目に入った。
同行者無し。ならば私的な見舞いなどではない。
病室に銃刀を持ち込むのはマフィアでも厳しく禁止されている。マフィアが利用する病院のフロアには、必ず武器の持ち込みを制限するための監視員がいる筈だが、それも居ないとなると……。
足音を殺し、そっと様子を覗き込む。
すると案の定、奴は刀をかまえたまま、俺の幻の前に立っていた。
「(アンタも考えることは一緒か。…本気で殺す気だな。俺を)」
打撃を加えられれば、幻は消える。
ならば先に、この人を昏倒させなくてはならない。
人目につく場所で死体に変えれば、処理は余計に面倒さが増す。ここで軽率な行為は取れない、と判断し、俺は寝台で眠る髪分身に強く幻術の力を込めた。
「――――!!」
身構えたのも束の間。尾崎さんは驚きに目を開いたまま、強い幻覚に脳貧血を起こし、その場に倒れた。
人がいない個室、更にはマフィア専用のフロアとなれば、人通り自体が限られている。
それどころか、尾崎さんが俺の暗殺のために、自ら人払いをしている状況ときた。
今このフロアは無人と言っても過言ではない。
それでも音で周囲に気づかれる可能性に留意し、彼女が地面に倒れる前に身体を受け止めた。
―――さて。彼女をこのままにしておくわけにもいくまい。
処理をどのようにするか、と考えた時、尾崎さんとは背格好がほとんど一致していることに気がついた。
下駄さえ揃えれば、目線が変わることはない。化粧で顔を変え、衣服で体つきを隠せば簡単に女装できる。
まだ声変わりを迎えていない声帯と、平たい喉仏にこれほど感謝した日はないだろう。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時