菩提樹下の逍遥《弐》【文/ス/ト】

こんにちは、赤の他人様《八》 ページ23

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「言ったろ。特務課を焼却するのがゴールだって。

森鴎外やら中原中也がいる状況で、流石にマフィアが完全になくなるまで追い詰めることはできないさ。

　だがマフィアと軍警が戦争状態になっても特務課は何もできないんじゃ、正義も悪も曖昧なグレー組織は上から叩き潰されるよ。

　この程度で燃え尽きる組織だったら、屋台骨をへし折って正解だと思わない？」
　
「その為だけに組織を裏切るか。他人を何人も巻き込んで。マフィアを笑えた義理か？」


いつになく正しい意見だ、と我ながら情けなくなる。


綺麗事の一切が通用しない地獄で生まれ育ち、世論でしかモノを言えぬ人間にだけはならないと、心に決めていたはずなのに。


「じゃあ、そんなテロリストから一つ朗報だ。

　お前の妹さん……銀さんは今、そもそも関東圏内にいないよ。今日の昼から西方の制圧だったからな。

【尾崎さん】からの連絡だからって、その日のうちに出立していった。これで一つ不安要素は消えただろ」


お前には(、、、、)迷惑をかけないよ。


それだけ言い、千代は背を向けて歩き出した。


「もうじき、Qの異能によって汚染された構成員の処分が執行される時間だ。足掻くのがマフィアの人間としての職責だと思うなら、ここで俺の相手をせずに戻るのが賢明だぜ。俺の首を撥ねたところで、抗争は誰にも止められねえしな」

「待て――」

「いいの？――唯一、俺の正体に気がついていた男の口が、もうじき塞がれちゃうんだぜ？」


稲生武大夫。その名前が千代から発せられると同時に、最後に見た、彼の姿をありありと思い起こした。


『芥川さん…！』

『芥川さん、早く、離れ―――』


あの時、本当に訴えかけていたのは、尾崎紅葉は「足立一之の変装である」ということ。


「そもそも、奴は本当に精神汚染されていたんだかなぁ？ でもこのままじゃあ処刑されて当然じゃねえかな」


千代助は返事をする暇を与えない。


手にした銃口を僕のすぐ頭上に向け、めちゃくちゃな銃撃姿勢で鉄骨をいくつか破壊する。


まもなく、自由落下に任せた鉄の塊が、僕を標的にして降り注いだ。



「―――アクタガワ！！！」


開いた天井の隙間から、光が差すように白い腕が伸ばされる。僕は考えるよりも先に、その手を取っていた。


「エリス嬢…、」

「飛ぶわよ、捕まって！！」



背後で子供が飛び跳ねるような笑い声がしても、僕は決して振り返らなかった。


遠く離れていても、生き残りの軍警が次々に幻覚で命を落とす悲鳴が聞こえた。




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