【文スト夢】007の失踪≪２≫〜俺の失踪届けも出せ〜

マフィアの思惑　1 ページ32

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どうして綾辻先生が、足立一之というマフィアを側に引き入れたのか。理由が一つわかった。
 

京極夏彦の殺人事件を解決するキーパーソンであり、淀んだ軍警を一掃するのに都合が良い存在だからだ。


「さて、足立君。俺は君の冤罪を証明したぞ。——約束通り、変装をしていた理由、梨木香歩について知っていること、洗いざらい吐いてもらおう」

「もちろん。そうさせて頂きますぜ」


綾辻先生は、足立さんを薄汚い殺人犯を見る目で睨んだ。同情なんてみじんもしていない。


しかし、足立さんは、それが正しいとでも言いたげに、穏やかに笑っていた。彼の表情からは、私たちへの信頼が伺えた。


足立さんの正義感と倫理観のバランスは、なんだか独特だ。



◆


 
「俺が海岸で京極と遭遇し、記憶を失ったのは９月８日です。経緯は既にお話した通りですが、確か、午前２時ぐらいに港をあるってて。京極に会った瞬間、激しい頭痛に見舞われたと思ったら、すっかり記憶を失くしていたんでさ」
 
「そういえば。どうして、深夜の港で散歩を？」



「……四年間の潜入任務から、やっと解放されたもんで。浮かれて歩いてました。アイス食いながら」



「アイス」





ガリガリ君です、と謎の注釈を加えた。


年単位の仕事がやっと終わったその日に、京極の事件に巻き込まれたのか。なんだか可哀想に見えてきた。





「それから、目が覚めたら精神病院にいたんですよね」



「ええ。……妙な変装をさせられた上で。それが８日の午前８時です。入院の日付と時間帯は、入院患者用のドックタグに書いてありやしたぜ。日時は確実だと思いますよ」




妙な変装。つまり、梨木香歩によく似た格好だ。この格好が原因で、足立さんは梨木殺しの汚名を着せられることになる。
 
 
「待ってください。『妙な格好をさせられた』？ この変装って、自分の意志で着たわけじゃなかったってことですか？」
 
「ええ。起きたら、この格好だったんですよ」
 
 
 白い髪に、赤いコンタクトレンズ。そして特徴的な眼帯。どれも『梨木香歩』に模しているとしか思えない。


つまり、マフィアは少なくとも、梨木香歩について外見の情報を得ていたということになる。

 
「俺は鏡を見ても、それが自分だと分かりませんでした。そりゃそうだ、自分の姿かたちとはすっかりかけ離れた格好なわけですからね」

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