【文スト夢】007の失踪≪２≫〜俺の失踪届けも出せ〜

辻村の正義　5 ページ29

.
 
「一応聞くんだが、足立君。――君は、病院で軍警による無理な尋問があったと言っていたな。誘拐同然に、軍警に病院から連れ出されたのは、いつのことだか覚えているか」
 
「ごめんなさい」
 
「よしわかった。もう良い」
 
 
足立さんは潔かった。綾辻先生には、既に真相が見えているようだけれど、イチから推理を披露するつもりらしい。こうして話を引き出しながら解説をするのが、先生の癖だ。
 
 
「結論から言うと、足立君が軍警に捕まったのは９月１１日。指名手配される前はおろか、梨木香歩の死体が発見されるよりも前だ」
 
「それって、事件が発覚するよりも前から、足立さんのことを逮捕しようとしていたってことですか？！」
 
「ああ。そのためには、事件が起こることを、軍警側が事前に把握している必要がある。あまりにも計画的な動き方だと思わないか」
 
「綾辻先生。つまり、こういうことですかィ。軍警は【起きると分かっている殺人事件を放置した】。もしくは、【殺人事件を起こした】。……俺を冤罪で逮捕をするために」
 
「残念ながら、結論はそうなる」
 
 
足立さんの表情から感情が消える。みしり、と音が鳴るほどこぶしを握り締め、静かに怒りをたたえていた。
 
私はふと、坂口先輩の、ほの暗い怒りをたたえた表情を思い出す。遺体を発見した時から、先輩には、既に状況が理解できていた可能性が高い。
 
 
「それからもう一つ、考えるべきことがある。梨木香歩の不可解な遺体の状況だ」
 
 
綾辻先生は、捜査資料の一つである【梨木香歩の遺体】を撮影した写真を指差した。
 
誰が見ても、合成か蝋人形としか思えないほど、生き物の死体であると感じさせる生々しさがない。遺体をどう加工すれば、こんなに無機質になるのだろう。
 
 
「被害者は、イスにこしかけた状態で亡くなっていた。切り落とされた首は手前側に転がっている。そして、体液は一切出ている様子がない。検死でも、血液の類が一切ない【ミイラ】状態であることがわかったそうだ」
 
「ミイラ？ 犯人は臓器の腐敗が始まる前に、ご遺体に加工をできる知識があったと？」
 
「単純に考えればな。その時点で、記憶喪失になっていた足立君には不可能であるし、そもそも時間も圧倒的に足りない。――足立君。君がここまで完璧なミイラを作ろうと思ったら、どれだけの時間が必要だ？」
 
「２か月とちょっと」
 
 
足立さんは間髪入れずに答えた。…………作れるんですか。作ったこともあるんですか。
 

辻村の正義　6→←辻村の正義　４

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す