【文スト夢】007の失踪≪２≫〜俺の失踪届けも出せ〜

Let's just smile and say goodbye.　４ ページ17

「……１３４人を、君が殺した？ たったの一晩で？」


安吾のつぶやきには、呆れと嘲りが隠すことなく込められている。相手が子供だから侮ったのではない。論理に反する発言を平然とつぶやいたことに対して、安吾は相手の知性を疑ったのである。


「それだけの人数が殺される事件が、今になっても警察による捜査が行われていないのは不自然です。異能力による犯行ではないことぐらい、僕にはわかっています。たしかに犯行現場には居たのでしょうが……貴方は助手に過ぎない立場だったのではありませんか？」

「捜査は進んでますとも。誤った方向に(、、、、、、)」


花嫁は冷静に言い切る。年に合わない無機質な声だった。


「君が、誤捜査に向かうように情報を統制したとでも？」

「そんな時間も権限も、私にありゃしません」


黒い目がじ、と安吾を見つめ返す。花嫁は瀟洒(しょうしゃ)な外見に似合わず、下町なまりの古風な言葉遣いだった。


「誤認逮捕をさせたのです。もう犯人は捕まっているのですよ。ですから、これ以上捜査が行われることはないのです」


時計の秒針のように、抑揚のない声だった。まるで花嫁には、警察の動きも、捜査の方針も見えている様だった。


「地元で幅を利かせていたカラーギャングのみなさんに、人柱になっていただいたんでさ。ニセモノでも犯人を検挙できれば、警察はそれ以上の捜査を続けなくなります」

「本当にそうでしょうか。誤認逮捕の可能性があるのに、警察が捜査方針をひるがえさないだなんて、おかしな話ではありませんか？」

「……。」


押し黙った花嫁の態度に、安吾は『やはり悪趣味なイタズラだったのか』と笑った。


しかし次の瞬間には、笑った顔をもとに戻すことさえ忘れていた。花嫁の乾いた目が、安吾を貫いたからだ。


「この町で暴れている無法者を誤認逮捕したところで、なんなんです。ゴミの分別を間違えた程度の些細な問題でしょう？ 警察にとって、捕まえる相手がマフィアかギャングかだなんて、どうだって良いモンだろうがよ」



その眼には、公権力に対する強い不信がくすぶっていた。同時に、マフィアやギャングへの怒りも燃え上がっていた。


すさんだ態度の裏には、腐敗した警察やマフィアの世界に対する、明確な怒りがある。


安吾は、この花嫁に、不思議な共感を抱いた。自分と同じ、光にも闇にも属せない者の、かなしい孤独を感じたのだ。

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