【文スト夢】007の失踪≪２≫〜俺の失踪届けも出せ〜

逆転への一手　１ ページ12

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下水処理場/早朝/晴れ


京極との望まない邂逅から十八時間後。私、綾辻先生、そして足立一之の三名は、とある郊外の下水処理場にいた。足立一之は流石に入院服を着ておらず、綾辻先生から借りた、濃い青色の和服を着こんでいる。


この三人の他に人影はなく、従業員も２キロ離れた事務所で、下水処理をコンピュータ捜査している。これほど密会にうってつけの場所はない。


「良いニュースと悪いニュースがあります」


綾辻先生が早速、鋭い舌打ちをした。私が映画の主人公気分になって盛り上がろうとすると、この人はいつも冷や水をかけるようなことをする。じっと熱い視線を送り続けていると、渋々と言った様子で「良いニュースから」と呟いた。


「路地裏で心中を図っていた夫婦について続報です。銃弾の当たりどころが急所をそれていた事も起因し、ほぼ無傷で病院に搬送されたとのことです」

「子供の治療費はどうなった」

「お子さんの治療費についても、有志のクラウドファンディングが始まっています。今回の事件のこともあって、資産家の眼に留まったみたいです。治療費が集まるのも時間の問題でしょう」

「それは何よりだ。―ー京極について何か情報は？」


先生の質問に対して、私は資料を見ながら答える。


「聞き込みをしましたが、その場に綾辻先生の他に、誰かがいたことは覚えていないそうです。娘のうちの一人の治療費を払った男についても、かなりの数の仲介業者を通していることから、足取りを追うのは困難な状態です」

「なるほどな。振り出しに戻った、ということか」


綾辻先生のため息は重かったけれど、京極を目の前で逃がした悔しさを思えば、かなり怒りの温度が低いように感じられた。理由なら単純だ。――被害者の命は、助かったのだから。


「それから、これは京極の足取りとは関連性の見られない証言なのですが。ご夫婦のうち、夫の方が、こんなことを話していました。読み上げます。

『たとえ、私たちが命を懸けて、娘たちを救っても。ただ、子供たちに親を殺してしまった罪悪感を植え付けてしまうだけなんですね。』

『意識を失う前に、誰かに叱られた気がするんです。生き残った子供たちに、親殺しの罪を着せるな、と。』」


【人間の本性というものは、怒りの感情が噴き出す場所によって顕著に表れるものだ。】


綾辻先生が推理遊戯の時に話していた言葉を思い出す。ほんの少しだけなら、本性について見直しても良いかもしれない。


「足立さん」


私ははじめて、この名前に親しみを込めて呼んだ。

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