だがリストラ寸前である《壱》 ページ10
「(……やっぱ ぜってぇ無理だろ)」
−−−つうか、マジでさ。何でこのタイミングでくるかな。太宰治の暗殺計画なんて。
そんな俺の心の呟きは、初夏の昼下がり独特の 蝉の合唱に掻き消される。
表家業である学習塾の塾頭として 子供達のテストを採点する傍ら、俺は頭の中で 同じことを何度も考え続けていた。
◆
第一級敵対組織に区分される 探偵社の監視、そして裏切り者の暗殺……
たとえ同じ構成員同士にも 仕事内容を語れない、熟されてきた闇の所業。
つつけば幾らでも一攫千金の情報が出てくるような人間ばかりが集う部署、諜報部隊。
その長に座す俺は言わば、裏社会の中枢に どっぷりと頭から浸かって生きてきたようなはみ出し者だ。
この手で葬ってきた人間の数は 最早3桁を越える頃だろうか。
その経験を通して言えることは ただ一つ。
−−−人斬りの仕事に意思などいらない。
俺は まだ青い若造だとしても 職業人として 細けぇ聞かぬが花、言わぬも花だということは十に承知している。
…しかし、この疑問を解決するまでは如何ともしがたい。
何故に今になって 『太宰治を殺す』と云う命令が下ったのだろうか。
俺は一度 子供達のテストから目を離して、昨日 中也さんが残していった 殺人依頼の契約書を懐から取り出した。
この依頼を首領が下した日にち、それから首領の印鑑、最終確認を終えたという中也さんサインへと順番に目を通していく。
しかし、何度見ても この内容が取り決められた時期に変わりはない。
−−−−
しかし、この日付が示すのは 停戦協定を結んだ時より後という事だ。
「(停戦協定を結んで、即日に…今や探偵社員の太宰治を。暗殺)」
重ねて言えば、俺は一介の暗殺者に過ぎず 組織の中枢に意見を申し出るほどの身分ではない。
己の部を弁え 影に徹することこそ、諜報部隊という裏方に属す自分の仕事とはわかっている。わかっているのだが……
ただ殺すだけなら もっと優秀な戦闘員など山ほどいるだろうが、その中で 『俺』に回ってきたという事実が 全てだ。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - ゆらりんごさん» こちらこそ、読んでくださってありがとうございました!! 自分一人だけの妄想だったものが、誰かの心に残ることができて本当に嬉しいです。これからも書き続けていきます! ありがとうございます!! (2022年6月17日 11時) (レス) id: 8937c41eea (このIDを非表示/違反報告)
ゆらりんご - 自分の中で一番好きな文字書きさんがアバンギャルド•マボさんです…!これからも応援してます!足立くんが好きすぎる…!!自分の人生に影響を与えたと言っても過言ではない…!(重たくてすみませんッ!) (2022年6月14日 23時) (レス) id: b1085cf676 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» 限られた文字数での返答ですので、機械的な印象を与えてしまい申し訳ない!夢主の性格描写に好感を持っていただけて嬉しいです!!このシリーズにこれからもお付き合いください(о´∀`о) (2021年8月19日 2時) (レス) id: 8937c41eea (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - 不快にさせてしまい、本当にすみませんでした。作品、とても面白かったです!!特に足立君の性格がもう最高で...!こんな人惚れる以外の選択肢ないですよもう...! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» 個人の創作物にコメントをする際は、他作の名前を出したり、比較をすることなく、ストレートに「面白かった!」だけを伝えるようにしてもらえるとハッピーな気持ちになります!! よろしくお願いします( i _ i ) (2021年5月16日 23時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年6月23日 21時