太宰治《壱》 ページ25
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「………と、まぁ。今のが足立先生の異能力さ。これで分かったかい?」
「……悪い冗談が、過ぎますよ」
これは誰の言葉でもない。
太宰以外の全員の心中を、誰となく涙声で呟いたものである。
というか、足立が。
それを横目に 敦が床中に散らばる折り紙を拾い上げようとすると、足立の「散れ」という一声によって 彼らは壁中の定位置に戻っていった。
…あ、やっぱり異能者なんだ。
でもこんな可愛い異能は見たことがないなぁ、と敦にのんびり考える能力はなかった。
今にも謝罪会見が始まるというときに 脳内お花畑に飛べるだろうか?
(動かなくなった手裏剣で遊ぶ太宰を除き)
敦の隣では 出来立てのお茶を そっと差し出しす国木田が、涙を押し殺すようにして悶えている。
全身から溢れる謝罪会見中の政治家のオーラは、最早、いっとき 日本中を騒がせた某兵庫県議員の彼を思い起こさせる勢いだ。
「この度は大変、申し訳、ございませんでした」
敦の渾身の初土下座が炸裂する。
太宰は遠くで笑っている。
国木田は頭と胃を抑えて倒れ込んだ。
−−−死屍累々である。
「あぁ………良いのですよ。私の異能は、見ての通り攻撃性のカケラもない ほんわかさんですから。
その………えぇ。手品のように、子供に見せることもあるぐらいで」
「先生…あの」
「怒ってなどいやせんよ」
敦はまだ何も言っていない。
コンマの速さの返事だった。
「大丈夫。蜚蠊のことは良いんです。良いのです。太宰さんに怒ってはいけない。怒ったら負けなんです」
負けなんだ。と足立はもう一度言った。声は死んでいるが 表情筋は柔和な笑みをたたえたままなのが、余計に敦の胃を縮める。
「良いじゃない。遅かれ早かれこのことは、探偵社員の敦君には伝えておかなきゃいけないことだった訳だし」
「頼むから今回ばかりは死んでくれ」
「それじゃあ放っておいて良かったの?」
太宰は感情が読めない笑いを浮かべてお茶をすする。国木田は遅効性の毒を摂取したのに気がついた被害者のように目を見開いた後、何かに合点がいったようにうな垂れた。
「そういうことか、太宰」
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - ゆらりんごさん» こちらこそ、読んでくださってありがとうございました!! 自分一人だけの妄想だったものが、誰かの心に残ることができて本当に嬉しいです。これからも書き続けていきます! ありがとうございます!! (2022年6月17日 11時) (レス) id: 8937c41eea (このIDを非表示/違反報告)
ゆらりんご - 自分の中で一番好きな文字書きさんがアバンギャルド•マボさんです…!これからも応援してます!足立くんが好きすぎる…!!自分の人生に影響を与えたと言っても過言ではない…!(重たくてすみませんッ!) (2022年6月14日 23時) (レス) id: b1085cf676 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» 限られた文字数での返答ですので、機械的な印象を与えてしまい申し訳ない!夢主の性格描写に好感を持っていただけて嬉しいです!!このシリーズにこれからもお付き合いください(о´∀`о) (2021年8月19日 2時) (レス) id: 8937c41eea (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - 不快にさせてしまい、本当にすみませんでした。作品、とても面白かったです!!特に足立君の性格がもう最高で...!こんな人惚れる以外の選択肢ないですよもう...! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» 個人の創作物にコメントをする際は、他作の名前を出したり、比較をすることなく、ストレートに「面白かった!」だけを伝えるようにしてもらえるとハッピーな気持ちになります!! よろしくお願いします( i _ i ) (2021年5月16日 23時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年6月23日 21時