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お邪魔します、足立先生《弐》 ページ16

「ははは!そう固苦しくしなくたって大丈夫だよ。彼 学者の割にぽやっとしてるし。単純に静かな場所を好む人なのだよ、彼は」

「言われてみれば確かに ぽやんと……い、いや、貴様の脳味噌と俺の手帳ほどふやけておらんわ!何を失礼なことを」

「ごめんください!武装探偵社です」

最早 敦の耳にはなんの情報も入ってこない。
この騒ぎが耳に届き、「バッカモーーン!!!」と老人が飛び出してくる前にケリをつけなくては。
その一心で ドンドン、と戸を叩いて 引き戸に手を掛けた。
しかし建て付けが悪いのか ガタガタと鈍い音を立てるだけでビクともしない。

「あ、あれ…」

「ちょっと退いてて、コツがあるのだよ。…あ、私が開けるから良いよ足立先生!」

敦の焦りとは別に ひょいっと身を乗り出した太宰が、馴れた手つきで引き戸を開ける。


瞬間 フワッと冷たい空気と共に、墨やお線香の匂いが抜けて 江戸風鈴が涼しげな音をたてた。
建物全体が軋みをあげ、時代を遡る門を捺し開いたような錯覚に陥る。


「…すいやせんねぇ、出迎えが遅くなりやして」

「お久し振りです、足立先生」

国木田が一番に中へ入ると、深々と頭を下げた。やはり偉い方なのかと思い、敦が緊張して身構えていると 想像していたよりもずっと若い声と足取りが近付いてきた。

「おぉ国木田せッ うわっ!
随分ずぶ濡…いや、男前な……手拭いをお持ち致します。上がり(がまち)で悪いが そこで待っとくれよ」

…足立先生、と呼ばれる人が姿を現す。

その人物は 敦が想像していたよりも40ほど若かった。それでも着物を着こなす老成しきった雰囲気があり、落ち着いた印象を与える。
烏の濡れ羽色をした長髪を 紅い簪にくくり、それがくっきりと浮かぶ 貝殻の様な白い肌をしている。
目鼻立ちは涼しげで、奇抜な色合いをした人間が多い中で 純粋な日本人を思わせる黒い瞳を瞬かせている。

女性、いや。声は男性だ。
ちぐはぐな情報に 間違いなくこの人が足立先生なのかと戸惑っていると、
背後からドタバタと太宰が上がりこんでいく。

「ひっさしぶりぃ足立先生!私の」
「左から三段目の箪笥です」

更に 蘭学者は皆まで言わずにピシャリと返し、まるで日常風景のように踵を返した。イラついた様子もないが 、男らしく小気味の良い語勢である。

「えへへ。パンツまで濡れちゃった」
「貸しませんよ絶対。何があってもパンツは貸さねぇって決めてるからな」



それにしても、あの引き戸の開け方といい 二人は親しい仲なのか。
…その様子を見て、国木田は 疲労しきった顔で溜息をついた。

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設定タグ:芥川龍之介 , 中原中也 , 太宰治   
作品ジャンル:ミステリー
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - ゆらりんごさん» こちらこそ、読んでくださってありがとうございました!! 自分一人だけの妄想だったものが、誰かの心に残ることができて本当に嬉しいです。これからも書き続けていきます! ありがとうございます!! (2022年6月17日 11時) (レス) id: 8937c41eea (このIDを非表示/違反報告)
ゆらりんご - 自分の中で一番好きな文字書きさんがアバンギャルド•マボさんです…!これからも応援してます!足立くんが好きすぎる…!!自分の人生に影響を与えたと言っても過言ではない…!(重たくてすみませんッ!) (2022年6月14日 23時) (レス) id: b1085cf676 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» 限られた文字数での返答ですので、機械的な印象を与えてしまい申し訳ない!夢主の性格描写に好感を持っていただけて嬉しいです!!このシリーズにこれからもお付き合いください(о´∀`о) (2021年8月19日 2時) (レス) id: 8937c41eea (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - 不快にさせてしまい、本当にすみませんでした。作品、とても面白かったです!!特に足立君の性格がもう最高で...!こんな人惚れる以外の選択肢ないですよもう...! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» 個人の創作物にコメントをする際は、他作の名前を出したり、比較をすることなく、ストレートに「面白かった!」だけを伝えるようにしてもらえるとハッピーな気持ちになります!! よろしくお願いします( i _ i ) (2021年5月16日 23時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年6月23日 21時

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