しろくまのゆうびんやさん【叡智Ⅱ】 (ページ9)

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そしてそれら全てを覆す、ページ9

うん、と歯切れ悪く彼は頷いた。
『どうやって』
　そう日芽は空いていたスペースに続けた。

「正確には、届けられはしないんだけど。死んだ人は、もうどこにもいないから。……でも、『出したこと』にはできる」
『それに』
　何の意味があるの。
　そう書こうとして、やめた。『それに』に二重線を引いて打ち消し、代わりにチラシを裏返して、こう書いた。

『死んだ人に出したいんだけど。便箋って、あるかな』
「あるよ」
　商売道具としていつも持ち歩いているらしい。ロスティスラーフはシンプルな便箋と封筒をカバンから取り出した。「ありがとう」と日芽の口が動く。
　彼女の正面にあるのがチラシから便箋に変わる。その瞬間、ロスティスラーフは自分と彼女の間に何者かに割り込まれたような居心地の悪さを感じた。――ちがうな。割り込んでるのはおれのほうだ。
そう思ったロスティスラーフは、時計を見てから立ち上がった。まだ時間がある。

「今から郵便局に戻って取って来るよ、日芽姉への手紙。ちょっと遅くなるかもしれないけど、それまでここで待っててくれる？」
『気をつけてね』
　チラシの裏に返事が書かれた。おう、というロスティスラーフの返事は心なしか小声だった。そのままそろそろと立ち上がる。