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その続きはこう。言葉は乗り物だ。だったら、ちゃんと目的地に向かうような地図を作ってあげなければ。言葉は、きちんと吟味されなければすぐに迷子になるから。そして、それに導かれる人間もそのまま迷ってしまう。
「それだけは本当に勘弁して。奴は自分しか見えてない爆走トロッコよ。おまけに人を轢いても止まらない」
「言い得て妙かもしれないわね。……あ、私の話は聞く？ 聞かなくても、文美ちゃんなら書けてしまいそうだけれど」
「聞くわよ、微塵も興味はないけれど。そうでなきゃ、ゆりちゃんの言葉じゃなくて、妾の言葉になってしまうから」
そう言うと、じゃあまずは、と前置いて小百合は史――彼女の恋人であり、文美にとっては視界にすら入れたくない人間について話し始めた。正確には、その人間に対して小百合が向ける感情の話だ。
小百合。史。文美。彼らは皆、「リブレリーア」と呼ばれる、普通の人間とは異なる生まれ方・生き方をしている人間である。追い詰められた協会が生んだ、生きた本。彼らは皆、長い寿命と卓越した記憶力を持つ代わりに、五体満足とは言えない体を持つ。さらに、誰もが教育場に通い、同年代の友人と過ごす時間を、彼らは全て――読み、読み、読み、読む。本を読み、覚えることに捧げた。それ以外の生き方を知らされなかった人間たちだ。
しかし、それも今となっては昔の話。叡智の門の外にも文字や本が開放された現在では、彼らはただの人間と限りなく近い生活を送っている。
「この分じゃ午前中には書きあがってしまいそう。そのまま貴女に渡せばいいかしら？」
「あ、おれ今図書館に持って行く手紙集めてるから、よかったらついでに持って行くよ。史兄とも会いたいし」
ロスティスラーフが言うと、奇特ね、と呟いてから文美はインクにペン先を浸した。
「……奇特といえば貴女もね、ゆりちゃん。貴女、文字が書ければ言葉には人より堪能でしょう？ どうしてわざわざ頼んだの」
「簡単よ。だって、私のこの気持ちが、私の言葉でしか表現することができないなんてもったいないじゃない。……私の気持ちは、私の言葉だけでは足りないくらい、豊かなものだもの」
こともなげに言った小百合に、文美は一つため息を吐く。
「それに、私が知る中で一番素敵な言葉を使うのが文美ちゃんだもの。私、あなたの言葉で表されてみたい」
「……そういうのは、奴のほうに言いなさいな」
ペンが紙の上を走った。
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