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「六」
花火は走っていた。何度も人にぶつかった。怪訝そうな顔を向けられたし、怒鳴られもした。が、そんなもの、彼女にとってただの光、ただの音に過ぎなかった。どうでもよかった。目指す場所に比べれば。目指す人に比べれば。
ああ、私、最初からこうすればよかったんだわ。
五。
四。
三。
ようやく河岸から人がいなくなる。走る。走る。私とアナタ以外、誰もいないところへ。
二。
人気がいよいよなくなってきた。川の周りには雑草が生えている。花火の上がる音すら、遠くに聞こえる。
一。
瞬間、ぐらりと世界が傾いた。
傾いたのは彼女のほうだった。どうせなら、きれいな靴を履きたくて。靴ずれをしたって、いくら走ると言ったって、好きな人と会う時には、とびきり可愛い、新品の靴を履きたかったから。がくん、と足首が曲がる。
「いや」
小包が、彼女の手を離れた。
もう絶対離さないと決めていたのに。違う、もう一度手を伸ばせばいいだけ。手を伸ばす。届かない。いや。懸命に手を伸ばす。届かない。
視界が明るくなった。見上げる。空には、赤々とした大輪の花が咲いている。
少し遅れて、破裂音がした。花がはじける音であり、小包が水面を打った音だった。
転んだ態勢のまま、花火は這うようにして水面に近づいた。落ちた先では、同心円状に波紋が起こり――間もなく、何事もなかったかのようにただの流れに戻った。空に大輪の花が咲くたび、水面には花火と――花火、彼女の顔が映る。
「え……？！ あれ、こんなところに？ 大丈夫？！」
ようやく彼女を認めたロスティスラーフが駆け寄ってきた。彼が来るなり、彼女は悲しげに笑った。
「だめね、」
ここには、自分と彼女の二人しかいない。なのに、自分に話しかけられてはいないような気がして、ロスティスラーフは怪訝そうにする。
「私。やっぱり、アナタがいなきゃ咲けもしないの」
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