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「ご注文のウインナーコーヒー……」
「あれ、もしかして……」
客とトーマン、相対した途端に同時に言葉を失った。どちらも相手の顔を覚えるのが得意な性質らしい。客として椅子に座っていたのは、先日彼の家に手紙を届けに来た配達員だった。長い足を持て余したようにテーブルの下に投げ出していたが、テーブルの足や椅子の足に阻まれ、やはり窮屈そうだった。すごい偶然だ、と呟きながら客が先に口を開く。
「せっかくなので自己紹介させてもらっていいですか？ ロスティスラーフ・ルスラーノヴィチ・アルマゾフって言います！ ローシャって呼んでください！」
客、もといロスティスラーフはいかにも人懐っこい笑みを浮かべた。よろしくお願いします、と目がますます細められる。
「ご存じと思いますが、ヴォルフです。先日はありがとうございました」
「いえいえ！ むしろ受け取ってもらえたおれが感謝しなきゃ！ ありがとうございました」
急に詰まった距離感に少し違和感を覚えつつ、トーマンは返した。コーヒーカップをロスティスラーフの前に置く。会話に付き合った方がいいだろうか、と少し考えを巡らしていた間だった。
「お客さーん、ちょっといいすかー？」
後ろから声が飛んできた。振り返ると、雪が大皿ごとケーキを持って表へ出てきていた。
「チーズケーキ。四分の一残ってるんすけど、お客さん、どれくらい食べれます？ お代は一切れ分しか頂かないんで」
「え？！ いいんですか？！」
喜色満面、ロスティスラーフの喜びは声にまで表れているようだった。この調子なら全部食べてくれそうだ、とトーマンはほっと息をつく。
が、同時に不思議に思った。自分はなぜ、安心したように感じているのだろう？ 何に、安心しているのだろう。
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