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そして、読み終わったところでその人はますます怪訝そうな顔をした。
「……『届かない手紙』？」
「はい！ 今回は、日芽姉からの依頼で届けに来ました！」
今度カバンから取り出したのは、さっき預かったノートの切れ端。といっても、まるで教育場の授業中に回すもののように折りたたまれている。
「確かに本人かららしいですけど、何で？ 届けられますよね、自分で」
表にあった名前の字体で判断したのか、手紙は本物として受け取ってくれた。一安心、と心の中でほっとため息をつきつつ、ロスティスラーフは答える。
「自分じゃ出せない手紙も届かない手紙らしい。おれも勉強になりました！」
何だそれ、とその人は半分呆れたように笑った。笑うと雰囲気が柔らかくなる人なんだな、とロスティスラーフは感じる。
「あー……はい。確かに受け取りました。受領のサインとか必要ですか？」
「いや、そういうのはいりません！ でも、よかったら、なんですけど――」
そうしてロスティスラーフは、彼に一つお願いをした。
＊
急に現れて手紙を渡し、最後に「お願い」としてなぜか自分の名前を聞いて去っていった青年を見送った後、鵜久森響は扉を閉めた。変な時間に寝落ちしたときに見る夢、と言われても信じられる気がする。
しかし、思えば彼女の手を引いた時から、いや、あいつが「スター」なんて呼ばれ始めたときから。いや、自分の本質を思えばもっと前――彼と出会った時から、変な夢みたいなことばかりやっている気もする。そうであれば、もはや夢を見ている時間の方が長い。
けれど、手元にある手紙も、耳の痒みも――思い出した、と耳朶を触りながら洗面台に戻った。
そこには、らしくなくピアスが散らばっている。昼頃から違和感があったが、少し前から痒みに耐えられず全部外したのだった。もう一度鏡を覗き込んでみるが、化膿した様子も、虫に噛まれた様子もない。ただ、引っ掻いてしまったせいで熱を持ったように赤くなっているだけだ。まるで開けた直後みたいだ、と思い出す。もう開けて何年も経つ、今まで何も問題がなかった、初めて開けた穴。違う、開けてもらった、だ。
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