しろくまのゆうびんやさん【叡智Ⅱ】 (ページ14)

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日芽に言われたとおり、ロスティスラーフはノートの切れ端、もとい手紙を受け取るなり即座にカバンにしまった。
「せっかくだから今から届けてくる。……あ、郵便局にはいつでも遊びに来てほしいな！これきりなんて、寂しいから」
　そしてそう言って駆け出して行った。日はまだ高いが、少し風は肌寒くなってきた。東屋を出て日向へ出る。
　本当は、今すぐ彼の後を追いたい。やっぱりなし、と手紙を奪って破り捨てて花吹雪にしたい。何であんなもの出そうと思ったのだろう、と不思議でならない。
　けれど、手紙とはそういうものだったんだろう。信じて託したら、もう取り返しようがない。ちゃんと届くかどうかわからないし、受け取った相手がどう思うかも分からない。

　風が吹いた。もう花吹雪ができるほど花びらは残っていない。代わりに若葉がざわざわと音を立てる。山にかかっていた霞は晴れ渡り、新緑はどうしても未来を想起させる。
　出してしまったものは仕方がない。気を紛らわせるために、ロスティスラーフから受け取った手紙を、何となく一つ開いてみた。慎重に取り出さなければこぼしてしまいそうな枚数が入っている。便箋は、書かれたとき以外誰にも触られることがなかったように清潔だった。慎重に、丁寧に書かれたことが伝わる字は、一字一字目を離せなくなるような吸引力があった。一枚、二枚、三枚。読み終わった便箋を後ろに回し、次を目で追う。
　読みながら、日芽はふと気づく。
　世界が輝くとか。愛とか。希望とか。もしかしたら、「本当」なんてものは、そのあたりにたくさん転がっているのかもしれない。
　彼女はまた、日向のベンチに腰掛ける。

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