あなたの言葉借り考える・上 ページ13
「ひ、日芽姉……？」
戻ってきて最初に見た光景がソレあったため、ロスティスラーフはこわごわと声をかけた。日芽の視線が、彼の方へ向く。そして再びノートを取り、走り書きをして彼へ向けた。
『「絶対に届かない手紙」だったら何でも届けてくれるん？』
「ま、まあ……そういう仕事をやろうって頑張ってるから……」
文字には声色がないから、意図を測りかねつつロスティスラーフは質問に答える。
『じゃあ、今から書く手紙をお願い。届けるんはいつでもええし、いくらでも払う。その代わり、一回受け取ったら、私が何言っても私に返さんで』
行は次に移る。
『出せん手紙も、「絶対に届かん手紙」よね？』
「……よく分かんねえけど、分かったぜ！ 日芽姉が何言っても返さずに届ける！」
元気だけは良く返すと、頷いてから日芽はページを繰った。ノートの一番最後のページには、当然まだ何も書かれていない。そのページの付け根をテーブルの角に当てて折り目を付け、真っすぐに切り離した。先は少しぎざぎざしている。そんなことは気に留めず、彼女はペンを走らせた。
脳裏に浮かんでいるのは、ぼんやりと霞かかった姿でも、何度も焼き直しを続けたあの日の記憶でもない。
きっとこの手紙を読んでくれるであろう「あなた」だった。
私に嘘は語れない。私は本当のことを見たことがないからだ。見ようとしたことがない。だって、そういうのは私の担当じゃないと思っていたから。「本当のこと」が知りたいのなら、あなたに聞けばいいと思っていたから。事実、私はそれでずっと事足りていた。あなたの「本当」でよかった。
けれど経験と言うのは積んでみるもので、私たちはずっと一緒にいられるわけではないらしい。まずお前。そしてヒラク。――私は続こうとしたけど、邪魔された。だから、もう「聞けばいい」とか言ってる場合じゃない。私もそろそろ自分で「本当のこと」を語れるようにならなければならない。でも、今の時点ではどうすればいいのかすら分からない。私は、「本当」を語るための言葉を持たない。だから未だにヒラクが死んだことも、私が生きていることも、あなたと共にいることも信じられない。
だから私がそれを理解できるように、受け入れてどうにか生きていけるように。ひとまずそうなるまで、一緒にいて欲しい。私に教えて欲しい。
「本当」を語るための言葉を。あなたの言葉を借りられたら、きっと私はもう、大丈夫だ。
ねえ、響。
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