気持ちの在り方【MS】by.A ページ22
.
翔さん、あなたはきっと、知らないでしょう
俺がどうして生涯あなたに仕えることを決めたのか
幼い頃から憧れていた仕事まで断って
小さな屋敷の主にすぎない
あなたのそばにいることを誓ったのか
全てはあの日、縋るような瞳で俺を見つめ
今にも消えてしまいそうに微笑んだあなたが
儚く美しくて、護りたいと
心の底から願ったときに始まった
「潤、おはよう」
「おはようございます、翔さん」
翔さま、と呼んだことがあったけれど
あなたが、何だか恥ずかしいからやめろよ、と言った
そんな小さな出来事も、すべて憶えている
あなたが記憶の隅にも置いてくれないようなことでも
俺はずっと、忘れない
敬語もやめてくれ、と言われたのは
曖昧にはぐらかした
あなたと対等な立場になってしまったら
俺は自分の気持ちを
この胸に留めておける自信がないから
「よくお眠りになられましたか」
「ん」
「朝食のご用意は整っておりますが」
「すぐ仕度する」
「わかりました」
翔さんには両親の記憶がない
翔さんと彼の妹を遺し、事故で亡くなったのだという
妹は親せきから養女にしたいという申し出があったらしく
翔さんはたった一人で、愛された記憶もないまま
俺と出逢うまで一人だったと言った
涙こそ流さなかったけれど、あなたは確かに泣いていた
その涙を拭ってあげたいと思った
「いただきます」
それでも彼は今、こうして笑顔でパンをほおばっている
消えてなくなりたいと思うときもあった、とも聞いた
今はもう大丈夫だ、潤がいるから、と
悲しげに呟いた横顔は、息をのむほどに美しかった
どうしたら伝わるだろう
俺はあなたが大切で、必要だということが
俺がずっと側にいたいと
側にいてほしいと願うのは
この世でただ一人、あなただけだということが
どうやったら伝わるだろう
……どうやったら、伝えないままでいられるだろう
主と使える者という立場でしか
溢れて止まらないこの想いをとめられない
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 98人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：storm quintet x他4人 | 作者ホームページ：.
作成日時：2014年10月29日 23時
