―101― ページ8
.
ついに明日。
私がOHNOで初めて……というか、人生で初めて仕事として描いたデザインのドレスがお披露目される。
OHNO業界向け新作発表ショーが明日へと迫った夜、私は落ち着かない気持ちで明日の段取りを確認していた。
OHNOは少人数の会社だからデザイナーどころかパタンナーから候補担当までみんなが裏方で走り回ることになっている。
何度も読み返して頭に入ってるけど、それでも何かしていないと落ち着かない。
「おい、ちょっとは落ち着け」
「あつっ」
急に頬に走った痛みに私は反射的に声を上げた。
「ふは」
「もう、酷いですよ社長」
ケラケラと笑う社長がいつの間にか傍に立っていた。
手には二つのマグカップを持っていて、湯気がゆらゆらと昇っている。
あれを頬に押し付けたらしい。
「悪い悪い、あんまりひどい顔してたからつい」
「ひどい顔って！……そんなにひどいですか？」
言い返そうと思ったけど不安になって聞き返してみれば社長がにいと口角を上げた。
「大丈夫、酷い顔でも誰も気にしない。むしろ変な男に声かけられたりしなくていいんじゃないか」
「よくないじゃないですかそれ」
仮にも業界向けの発表会だ、社長の顔に泥なんかぬれるわけがない。
そう思って頬をつまむ私は社長の言った「変な男に声かけられたりしなくて」という言葉の部分はすっかりの聞き流してしまっていた。
隣に座った社長が改めてマグカップを差し出す。
中身はコーヒーのようだ。
「ほら、落ち着け」
「ありがとうございます」
コーヒーに口をつけてほっと一息。
社長はまだ笑いながら同じようにコーヒーを飲んでいる。
「笑わないでくださいよ」
「悪いって、わたわたしてんの可愛いから」
可愛い？
社長がナチュラルに発した言葉に私は戸惑う。
今、可愛いって言った、よね？
社長は自分が何を言ったのか自覚がないのか固まる私を見て「また変な顔になってるぞ」と言った。
私は自分の指で頬をつまんで無理やりほぐしながら「なんでもないです」なんて言葉を返しておく。
社長がそんなこと言うなんてふいうち過ぎて心臓に悪い。
私は自分を落ち着かせるようにソファに深く沈みこんで息を吐いた。
焦ったり緊張したりしてももうドレスは出来上がっているしどうにもならないのは分かって入るんだけど。
それでも落ち着けないのが人間の性というものだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 322人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年3月29日 22時
