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振り向きながらその様子を見てみたけど、何やら最後に閂を掛けている様子があって、あんなの初めて見たなぁと私は驚いた。
社長はここで育ったのか。
車に戻ってきた松本くんはきょろきょろしていた私の席のドアを開けた。
「どうぞ吉野さん」
「ありがとう」
外に出ると地面が砂利道になっていた。
日本家屋らしい趣がある。
「じゃあ潤、俺たち行ってるよ」
「ああ」
松本くんはひとり車に乗り込むと敷地の隅に向かってバックで車を進め始めた。
あそこが駐車場らしい。
「Aさん、こっちだよ」
「あ、うん」
日本庭園に目を奪われていた私は翔くんに呼ばれて慌ててあとをついていく。
車を降りたところから数メートル歩くと木立の向こうに古き良き日本家屋の玄関が現れた。
大野、という札が掲げられている。
「ただいまー」
翔くんはためらいもなく引き戸を開けると中に入っていった。
恐る恐る後ろをついて玄関をくぐる。
「お邪魔します……」
屋敷の中はシンとしていた。
翔くんの声に応える人はいない。
「Aさん、スリッパどうぞ」
「ありがとう」
「翔坊ちゃん、お早いお着きでしたね」
「もう、そろそろ坊ちゃんはやめてよ」
廊下の向こうから一人の男性が現れた。
燕尾服のようなものを着ている。
その男性は親し気に(翔9くんに声を掛けると、続けて私の方を見た。
「初めまして、私大野家にて使用人をしております真島と申します」
「吉野と申します。お邪魔いたします」
私が頭を下げると真島さんは私と翔くんを見比べて翔くんに問いかけた。
「ところで翔坊ちゃん、こちらの女性は？」
「智くんの大事な人」
「えっ」
「さようでございましたか」
「ちょ、ちょっと待ってください」
翔くんがさらりと言ってのけた言葉に私は慌てて制止を掛ける。
けれど真島さんは理解したと言いたげに深く頷いた。
「吉野様、大したお構いも出来ませんがどうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
さあ、応接間へご案内いたします。
と言うと真島さんは私たちを先導して歩き出してしまった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年3月29日 22時
