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松本くんがマグカップを手に戻ってきた。
私たちの間に流れる空気に気が付いたのか怪訝な顔をして私を見る。
「なにかあったんすか」
「それが……」
「あのね、潤。おれが和くんを探ってた話、したんだ」
「あぁ……」
松本くんはそれだけで状況を悟ったらしい、難しい顔をして頷いた。
「俺が説明しますよ」
一人掛けのソファに元通り腰を下ろした松本くんはそう言うと私と翔くんの返事も待たずに口を開いた。
松本のくんのことだから、翔くんが泣きそうな顔をしているから説明させるのは可哀そうだと思ったのかもしれない。
「探ってたって言っても、俺たちは社長に言われて和也さんを尾行したりした程度ですよ」
「……それ、十分探ってるんじゃ」
「とにかく。秋くらいから社長が和也さんに嫌がらせする材料を探るよう言われてたわけですけど、ある日和也さんがデートをするらしいってわかって」
松本くんが翔くんの顔を見た。
翔くんがこくんと首を振るのを見るとまた口を開く。
「和也さんと吉野さんが喧嘩した日っすよ。俺たち隣のテーブルにいたんです」
「うそ！」
私はあの日のことを思い返す。
……うーん、そう言われてみると隣のテーブルに若い男の子が座ってたような気がしないでもないけど。
「別に覚えてなくていいですよ、気づかれないように行動してたんで。隣のテーブルにいた俺たちはお二人の喧嘩を目撃しました。だからそれを社長に報告した。その結果、社長は喧嘩中なら奪い取れると思って吉野さんを奪うことに決めた……たぶん、そういうことです」
「……そんな」
私と和也さんが喧嘩をしたことがすべての原因だったなんて。
青ざめる……とは違うか。
血の気が引いたような、背筋が冷たくなったような、そんな気分で私は松本くんの話を聞いていた。
黙り込んだ私を見て翔くんが「でも！」と口を挟む。
「おれたちあの日泣いてるAさんに会って、ほっとけなくて……その、話しかけちゃったんだけど」
「話しかけた？」
「うん。お店の外で泣いてたでしょ、Aさん」
「泣いてた、けど……」
あの時に翔くんと話した？
覚えていることと言えば、男の子がハンカチを……ん？
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年3月29日 22時
