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わかっている。
社長はただ、和也さんに嫌がらせをしたかっただけ。
私が和也さんの彼女だったから、利用しただけ。
「……」
眠っている社長からの返答はない。
わかっているのに、それがひどく悲しくて、寂しくて、私は唇を噛んだ。
そうしないと何かが零れ落ちてしまう気がした。
何も今気づかなくてもよかったのに。
私って馬鹿だ。
いつの間に。
…………本当にいつの間に、こんなに社長でいっぱいになってしまったんだろう。
社長に褒められればうれしいのも、社長が自分の絵を認めないのが悲しいのも、社長がお母様に認められていないことが悔しいのも……和也さんと仲良くしてほしいと思うのも。
全部全部、私が社長を好きなせい。
そして社長は……私のことなどもう、必要なくなってしまったんだ。
「社長、私は……」
私は、貴方の傍にいたいです。
言いたかった言葉は、声になることはなかった。
好きだと思うのは……傍にいたいと思うのは、私だけ。
これ以上そばにいたって私ばかり苦しいだけだ。
和也さんがいたのに、社長に心惹かれた私が悪い。
私は……、和也さんのところに帰るべきだ。
これ以上一緒にいたら本当に戻れなくなってしまう。
これ以上社長でいっぱいになったら、きっとダメだ。
誰にとっても、ダメなんだ。
「…………さよなら、社長」
震えていたけれど、幸いなことに眠る社長には聞こえてない。
言い切る前に背を向けた。振り切るようにして部屋を出て、扉を閉じた途端に力が抜けた。
身体が扉にもたれかかってそのままずるずると崩れ落ちる。
「……社長……っ」
両手で顔を覆ったのはそうしないと何もかも溢れそうだったからというのもあるけれど。
きつく瞑った目にさらに蓋をして、この目にもう社長を映してしまわないようにという小さな抵抗だったのかもしれない。
さよなら社長。
私を和也さんから奪った人。
これでいい。
きっと、これでいいんだ。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年3月29日 22時
