―113― ページ20
.
おかしいなとは思っていた。
松本くんと合流して車の中でしばらく待っていた私の元に「先に帰ってろ」という社長の連絡が届いた時から。
松本くんにも状況はつかめないらしく「えらいさんにでも捕まったんすかね」なんて言っていたのだけど。
リビングのソファに座り込んで社長を待っていた私は玄関の開く音に気が付いてはじかれた様に玄関に向かった。
「社長、おかえりなさ、」
「ただいま」
俯きがちのまま社長がスッと私の横を通り過ぎて行く。
「社長……？」
通り過ぎてしまった背中を追うようにリビングに戻るけれど、社長は私と目を合わせることもなく重たそうに上着を脱いでいる。
なぜだか部屋の空気が重たくなったように感じて、私は険しい顔をしている社長に恐る恐る話しかけた。
「あの、社長……和也さんとお話しできました？」
「……断った」
「はい？」
「コンペの仕事は断った」
社長から返ってきた言葉は私の質問の答えにはなっていなかった。
厳しい顔の社長は心底機嫌が悪そうに言葉を吐き捨てる。
発せられる不機嫌のオーラに私は喉がきゅっと締まるのを感じた。
なんだかすごく社長が怖い。
「………社長、なにか、あったんですか……」
怖くても今の社長に声を掛けないなんてことはできなくて。
恐る恐る聞いた私を社長が暗い目で振り返った。
「！」
仄暗い目。
それは社長に会ってから初めて見る色をした瞳だった。
深い闇のような色が憎悪にも似た何かを内包するように鈍く光る。
モチーフとして描いたあの瞳とはまるで違う、何かを諦めたような、そんな目。
「お前の言う通りだよ」
「私の……？」
「そうだ、全部お前の言う通りだ。俺が和也を気にしてる時点で関係を断ち切れてないんだ。だからもう、断ち切る。あいつを気にするのもやめだ」
それは以前確かに私が言った言葉だ。
私が社長にぶつけた怒りのようなもの。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 322人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年3月29日 22時
