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「お前たちがそう言うならって言ってたし、翔くんのおかげだと思うよ？」
「えー、絶対Aさんのためだと思うけどなぁ俺、智くんが許可したの」
「まさか……」
私は苦笑いを浮かべるしかない。
翔くんはまだ不満そうな顔をしてたけど、私たちのやり取りは和也さんの声に遮られた。
「それよりお前、ここでゆっくりしてていいのか。デザイナーさん」
「あ、そうでした。もう戻らないと。それじゃあ和也さん、また終わったら感想聞かせてくださいね」
「わかったよ」
「俺も客席から見てるね、頑張ってAさん！」
「ありがと翔くん。でも頑張るのはモデルさんだから」
手を振る二人に背を向けて私は急ぎ足で来賓室を出た。
できればもう一度社長に会って和也さんが来ていることを伝えておきたいな。
「まぁ兄さんは。俺を招待したかったわけじゃないだろうけどな。Aが喜ぶから、か。あの兄さんが……ねぇ翔ちゃん、どう思う」
「……俺は、それでも二人に仲良くしてほしいよ。Aさんのことで喧嘩するんだとしても、顔を合わせもしないよりずっといいよ」
「…………それはできない相談だね翔ちゃん。俺はあいつを手放したりしないよ」
「そう……じゃあ、智くんにそう言いなよ」
「あいつは渡さない。代わりに……」
「和くん？」
「なんでもない。ほら翔ちゃん、くっついてないでそろそろ離れな」
「はーい」
略奪は悪いことだという。
それならば譲渡は？
「社長、やっとみつけました」
「A？どうした」
「和也さんが到着しましたよ。少し挨拶してきたらどうですか」
人の心とは難しいもので。
やっと近づいたと思った距離だって、些細なひび割れで崩れてしまう。
「……お前はもう行ったのか」
「社長が行くなら一緒に行きますよ？」
「……そうだな。お前もこい」
「はい」
その電話が鳴るまであと数時間。
この時はまだ誰も、いや……和也さん以外誰にも、その引き金を握っていることを知ってる人はいなかった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年3月29日 22時
