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よく見るとキッチンに洗い終わったお皿とマグカップが置いてあるから、朝ご飯を終えてしかも洗い物までしてくれたらしい。
それを片してから私は掃除道具を手に取った。
とりあえず日差しに透けている埃からかな。
リビングから掃除を始めた私はキッチン、自分の部屋を順に終わらせて書斎の前に立っていた。
コンコンコンとノックをすれば「入れ」と声が聞こえてくる。
「すみません社長、ここと社長の寝室はどうしますか」
「ああ、寝室はあとでやるよ。ここは頼む。俺のことは気にせず自由にやってくれていい」
「わかりました。失礼しますね」
社長はまだ仕事中のようで、せっかくのお正月休みもこれでは一日仕事になってしまいそうだ。
せめて食事は楽しんでもらわないとね。
手を動かしながら夕飯の段取りを考える。
そうして掃除をしていた私は、本棚を拭いているときに壁との隙間に挟まっている箱を見つけた。
「なんだろ、これ」
「どうかしたか？」
「なんでもないんです、ただ、ここにこんな箱が……」
私の声を拾った社長に私は隙間から引き出した箱を見せる。
社長は首をひねったあと、すぐに「あぁ」と小さく声を漏らした。
「お前が見たいなら見て良いが、大したものじゃないよ、仕舞っとけ」
社長は興味がないのかそう言うと机に向き直ってしまった。
私は箱を前にしばし考えて、そっと中身を取り出してみた。
「わあ！」
「なんだ、開けたのか」
私が声を上げたからか社長がそう言った。
私は手に持った絵を光の当たる場所へ移動させる。
「これ、どうしたんですか？」
「……あぁ、それは昔趣味で描いてたやつだ。今はもう描いてない」
社長は眉間に皺を寄せてしまったけど、一応答えてくれた。
「社長が描いたんですか？」
「そうだ」
「すごいですね……」
「そうか？」
「そうですよ！」
全然興味なさそうな社長をしり目に私は出てきた何枚かの絵を見比べる。
系統の違う三枚の絵、素人の私が見ればどれもとても素敵で上手なものだ。
「今は絵は描いてないんですか？」
「必要ないからな。今描いてるのはデザイン画だけだ」
顔を上げずにそう言う社長の声は少し冷たい。
あんまり、この絵のこと好きじゃないんだろうか。
それならはしゃぐのは悪いなと思って私は絵を箱に戻す。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年3月29日 22時
