File53 月影島診療所 ページ9
「とにかく麻生さんの友人だったっていう、この島の村長さんに彼の事聞いてみよ! 何か分かるかもしれないよ!」
「そ、そうだな……」
依頼料は払い込まれているし、その分の仕事はしないと探偵としてのメンツが……ねぇ。というか、ボウヤは既にやる気満々ね。不気味な物好きなのかしら。
「確か村長は公民館にいるって言ってたな……」
毛利探偵と共に役場で貰った地図を見る。公民館の位置を探していると、近くで若い女の人の声がした。
「いーい、ケン太君! ちゃんと温かくして寝るのよ!」
「うん!」
女の人の近くには『月影島診療所』と書かれた看板が有る。女の人……いや、女医と言うべきであるその医師は、かがみ込んで小さな男の子と話している。ケン太という少年は女医に手を振りながら走って行った。元気で年相応の男の子ね。どこかの誰かさんとは違って。そう思ってボウヤを見やると、ボウヤはこっちを睨む。あー怖い怖い。
「バイバイ、成実センセー!」
「バイバイ!」
肩までのポニーテール。年齢はざっと二十代前半。タートルネックって、ジンを思い出すわね。スカート履いてる時点で違うか。
「あの──スミマセン」
「あ、はい……」
「公民館ってどこですか?」
「あの角を曲がった突き当たりに……」
指を差して説明し終えた女医は今度は私達に聞いて来た。
「もしかして本土から来た方?」
「はい、東京から……」
「え──っ、私の実家も東京なんですよ!」
そう言うと笑顔になる女医。知的な見た目とは反して明るい人ね。嫌いじゃ無いけど。親近感があるのかしらね、こっちの人的には。ていうか、私の母国は一応アメリカなんだけど。国籍は日本だけどね。
「でもこの島、東京と違ってステキでしょ? 空気は澄んでるし、とっても静かだし……」
「ええ。でもどちらにも良い面悪い面が有ると思いますよ」
「わ、理知的なのね! 確かにどっちにも良い面悪い面はあるから!」
「静かなのは嫌いじゃ無いですけど」
そう言った途端、拡声器を取り付けた白いミニバンが走って来た。拡声器からは「島の漁場を守るために、この清水正人に……清き一票を!」という大きな声が聞こえて来る。女医はバツが悪そうに笑った。
「もうすぐ村長選挙で……。いつもは静かな島なんですけど……」
「村長選?」
「はい!」
女医の顔付きが急に真面目になる。まぁ村民にとっては大事な行事よね、村長選は。
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作者名:櫻咲翼遥 | 作成日時:2016年12月18日 15時