File60 川島英夫の死 ページ16
【〜SIDE 神薙琳佳〜】
「ボウヤ」
「なーに? 琳佳さん」
「あの手紙の文章……意味的に何か引っ掛からない?」
「あ……うん。今それ僕も思ってた」
ボウヤとその言葉を交わした時、公民館から悲しげなピアノのメロディが聞こえて来た。
「月光!」
その曲はまさに、ベートーヴェンのピアノソナタ第十四番、『月光』だった。
「し、しまった!」
私のボウヤは何かに弾かれるようにして公民館の入口に飛び付いた。扉を開けて中に駆け込む。
「コ、コナン君!? り、琳佳さん!」
廊下を走って一番奥の部屋に行く途中、異変を感じたのか参列客が廊下に出ていた。視線はもちろん奥の部屋だ。
「音はピアノの部屋からか?」
やはり音はピアノのある部屋からだった。全速力で走って扉を開ける。開けた瞬間、ピアノの音は一気に大きくなる。
────そこには、信じられない光景が広がっていた────!
ピアノの椅子には川島英夫が座っており、その身体は全身ずぶ濡れ。鍵盤の上に突っ伏している。挙句の果てにその顔は、恐怖に歪んだまま固まっている。
「(お、遅かった!)」
「川島英夫様……ありがとうございました。貴方様の死後の冥福をお祈り致します故……」
「り、琳佳さん……!?」
「亡くなった人には必ずこうする事にしているのよ。生まれて来てくれてありがとうございました。貴方様が生まれて来てくれたおかげで、助かった人は必ずいたはずだから」
そう言い切った時、私とボウヤの横を誰かが通り過ぎた。もちろん、毛利探偵だ。
「ダ、ダメだ……死んでる……」
「でしょうね」
「な、なんだって!?」
「全員、その場から動くのを辞めなさい! 少しでも動いた人がいたなら、尋問させてもらうわよ!」
私のその言葉に、黒岩現村長を含めた全員が動きを止めた。
「蘭ちゃん、この島の駐在所に連絡を! そうよね、毛利探偵!」
「あ、ああ! 頼むぞ蘭!」
「う、うん!」
奥の方で不安そうな顔をしている成実医師がいた。その成実先生を、毛利探偵は呼んだ。
「成実先生、検死をお願いします!」
「は、はい……」
袖捲りをしながら遺体に近付く成実先生。多少の動揺が見られる。私の足元で、ボウヤは検死をしている成実先生を見つめていた。
「(そうか…そうだったんだ……。一週間前、小五郎のおっちゃん宛に届いたあの手紙……)」
ボウヤも気付いたわね。私もさっき気付いた、あの手紙の意味を。
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作者名:櫻咲翼遥 | 作成日時:2016年12月18日 15時