File55 ホコリだらけのピアノ ページ11
今日は『亀山勇』前村長の三回忌である。黒岩村長も令子も平田秘書も喪服を着ているのだが、村沢は黒系ではあるものの、サングラスにニット帽という、法事には合わないラフな格好をしている。
「さっき村の奴に聞いたら、今度の村長選、お前の親父旗色悪いって話じゃねーか……」
「その通り！」
村沢よりもさらに背の高い中年男性が部屋に入って来た。島一番の資産家であり、村長選立候補者の『川島英夫』である。
「どうやら私が村民の支持を一番受けているようだ……」
面長の顔の上で整えられたちょび髭を川島は指でなぞっている。それを見て、黒岩村長は「フン……」と笑った。
「お前は金の使い方が上手いからな……」
「フフフ……お前に習ったんだよ……」
黒岩村長も川島も皮肉を言い合うが、険悪な雰囲気にならない。いつもの事のようだ。
「あのー……」
外から戻った平田秘書が、村長に告げた。
「村長にお会いしたいという方がお見えですが……」
「誰だ？ こんな時に……」
「そ、それが……東京の探偵の方で……」
「た、探偵!?」
【〜SIDE 神薙琳佳〜】
公民館に着いたは良いけど、あの秘書本当に信用出来るのかしら？ もう五分経つんだけど。
「──ったく、いつまでこんな所で待たせる気だ!?」
「ボウヤ……あそこ……」
毛利探偵を無視してボウヤに話し掛けると、ボウヤも同じ所に興味を持っているようだった。廊下の一番奥。扉の開いている部屋が有った。両開きの扉にはガラスが嵌め込まれている。そのガラス越しに、部屋の中を覗き込んだ。
「！」
「あ、コラ、コナン君……。琳佳さんも止めてください！」
「グランドピアノね……ボウヤは何が好き？」
「え？ 琳佳さんピアノ弾けるの？」
「一通り引けるわよ、楽器ならね。何が良い？」
「なんでもいいよ(てか俺、音楽知らねーし……)」
「じゃあ、G線上のアリアにするわね」
部屋の隅に置いてあるのは立派なグランドピアノ。というか、部屋の中にはこのピアノ以外何も無い。
「でけー部屋だなぁ……」
「ん？ ほ──、公民館の裏はすぐ海か……」
部屋には通行口があり、砂浜に続いている。春の陽光が綺麗ね。海に反射してるわ。
「じゃあ弾くわ……。でもこのピアノ汚いわね……」
私がピアノの蓋を開けようとすると、背後から男の声が聞こえた。
「ダメです、そのピアノに触っちゃ！」
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作者名：櫻咲翼遥 | 作成日時：2016年12月18日 15時
